雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


奥様は、常務に何とおっしゃるだろうか。噂の真相を確かめてしまうだろうか――。

思わず息を呑み、目を硬く閉じる。

「どうだ、雪野。いろいろ教えてもらえたか?」
「はい。本当に助かりました。資料まで準備してくださっていたんです。分かりやすくて、ためになりました」

常務を笑顔で見上げる奥様に、私は呆気に取られた。

「そうか、それは良かった。神原、忙しいところ悪かったな。おかげで、雪野も心強いだろ」
「いえ、私は――」
「――神原さん。今日は、本当にありがとうございました」

みっともなく狼狽える私に、奥様が言葉で遮り、私に目配せをした。

「雪野、あと少しで仕事が終わるから。ちょっと待っていてくれ」

どうして、常務に何も言わないの? 
私のいないところで、伝えるつもり――?

「いえ、私はこれで失礼します。ちょっと、寄りたいところがあって」
「えっ? でも、今日は最初から一緒に帰る約束だろ?」

常務が驚いたように奥様を見ている。

「急に買わなきゃいけないものを思い出したから」
「なら、俺も一緒に――」
「創介さんがいたら、落ち着いて選べないの。私は先に帰って買い物しておきますね。
神原さん、今日はありがとうございました」

私に会釈すると、そそくさと部屋を出て行ってしまった。

「お、おいっ――って、逃げ足の速い奴だな……」

常務が残念そうに、溜息をついている。

「わ、私、お見送りしてきます!」

居ても立ってもいられなくて、奥様の後を追った。

< 56 / 380 >

この作品をシェア

pagetop