雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「神原さんが謝る必要なんてありません。おっしゃったことは、何も間違ってないです。どれもすべて、主人の立場を考えてくださったからこそ。ありがとうございます」
「奥様……っ」

何故か、目の前の人が私に頭を下げている。

「神原さんのような方が主人の秘書で良かったです。本当に主人のために働いてくださっているんですね。言いづらいことをはっきりとおっしゃってくださって感謝しています」

私に初めて会った時に見せた笑顔と同じ表情をしていた。でも、その笑顔は少し歪んで見えた。

「私は会社のことに詳しくはありません。でも、きっと複雑なことがあるんでしょうね。いろんな思惑や争いも……。でも、神原さんは主人の味方でいてくれる方ですよね?」
「もちろんです! 榊常務がどれだけ真摯に業務に当たられているか、いつも間近で見ておりますから」

考える前に答えていた。
その言葉に嘘はない。

「良かった……。では、これからもよろしくお願いします」

もう一度深く頭を下げる奥様に、私は何も言葉を返せないでいた。

私なんかが喚いたところで、立場が違う。
こうやって、榊常務のことを「よろしく」と頼める立場にいる人なのだ。

「――今戻った」

そこに、榊常務が戻られた。
咄嗟に自分の肩が強張る。膝の上の手が震えた。
  
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