主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「えぇ。そうですね。
でも、阿蛭さんのおっしゃってる意味はわかりますよ?
お付き合いしてみないと、わからないことはありますものね!」
紅葉は、特に気にせず答える。

「じゃあ、姫様は雲英以外にもいらしたんですか?
交際してた人」

「いえ。
甲斐が、初めてです」

「そうですか。
でも、いまだに不思議です。
貴女のような純粋なお姫様が、雲英のような冷たい男を選ぶなんて」

「え?冷たい?
甲斐は、とても素敵な心温かい男性です!」

「それは、姫様がご存じないだけでは?」

「え?」

「雲英はクールで、一人でいることが多かった。
亞嵐は従兄弟だったからか、一緒にはいることがあったけど……
“寄るな”って雰囲気を常に出してた。
それでもこの容姿ですから、告白なんて日常茶飯事でした。
でも、頑なに恋人を作らなかった。
更に断り方も、かなり冷たくて……」

「え?でも、阿蛭さんとはお付き合い……」

「それは……」

「澪雨!!」
「澪雨、それ以上はやめろ!!」
雲英と亞嵐が、慌てて止めに入る。



「身体だけの関係でしたから、私達」



「え………身体…?だ、け…?」
澪雨の言葉が、紅葉を突き刺す。

「澪雨!!」

「………」

紅葉達の空間だけ、冷たく凍っていく。


「甲斐、は…阿蛭さんと、セフ…レ…だっ…たの………?」

傷つき、切なく揺れる、紅葉の瞳。
“嘘だよね?”とすがるような、視線。


「………………
……紅葉様、申し訳…ありません……!
澪雨の言ってることは、事実です………!」

違うと言いたい。
でも嘘をつくのは、もっと嫌だ。

雲英は、意を決して紅葉に伝えた。

「どうして?」

「え?」

「どうして、そんなことしたの?
私が“いらない”って言ったから?」

「そう…です…ね…
僕は、紅葉様だけをずっと想ってきました。
貴女のお傍にいれることが、幸せだった。
だから“あの言葉は”かなり傷つきました。
そんな時に、澪雨からの告白を受けたんです。
正直、誰でも良かった。
たまたま、その時に告白してきたのが澪雨だったというだけ。
この苦しい思いを忘れさせてくれるのなら、何でも良かったんです」

「そう……
でも、ダメだよ」

「え?」

「そんなの、ダメ!」

「紅葉、様?」

「そんな神聖な行為を、苦しみを癒すために使っちゃダメ!」

「神聖?」

「だって、そうでしょ?
セックスは、私達が未来に繋ぐ命の行為。
相手を想うからこそ抱き合って、宝物ができて、未来に幸せを繋ぐ。
だから子どものことを“愛の結晶”って言うんだよ」

紅葉の純粋な想いが、雲英を突き刺していた。
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