主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
それから警察が来て、向田達は連行された。

「━━━━では、明日。署の方にお願いします」
「はい。崎下さんに“くれぐれも”よろしくとお伝えください」

「あ、は、はい!」
刑事が丁寧に頭を下げ、パトカーに乗っていった。


「誰すか?崎下?って」

「警視総監だ」

「あーね。
……………
え!!?」

「大旦那様の仲の良い後輩と同級生なんだ」

「さすが、空神財閥!(笑)」



一方、紅葉は車内でゆっくり目を覚ましていた。
「━━━━はっ!!?」

雲英の匂いの充満する空間。

「あ…甲斐の車の中か……」
安心感に包まれ、息を吐くように呟いた。

肩には雲英のジャケットがかけられていて、自分を抱き締めるようにして包み込んだ。

「良かっ…た……」

また目が潤み、涙が溢れてくる。

最低だ。
甲斐や神くんに、心配と迷惑をかけてしまった。

守られ過ぎて、自分で対処も出来ない。
情けない。

「ごめんなさい……ごめんなさい…
甲斐、神くん、ごめんなさい…」

謝らなきゃ!!

そう思い、車を降りた。

外にはパトカーが止まっていて、刑事も沢山いた。
「あ、危ないので車の中に!」

女性警察官が寄ってきて、車に戻るように言う。

そこに、突き刺さすような声が紅葉の耳に届いた。
「紅葉様!!!」
「紅葉!!」

「あ…甲斐…神く…」
駆け寄ろうとして、躊躇する紅葉。


甲斐に、抱き締めてもらいたい━━━━
いつものように、息苦しくなるくらいに。


甲斐に、キスしてもらいたい━━━━
いつものように、止まらないくらいに。


でも、もしかしたら、幻滅されたかもしれない。

こんな……警戒心がなくて、心配や迷惑をかけた私を━━━━━━


紅葉は思わず、項垂れるように俯いた。

「紅葉…様…?」
「紅葉?」

「………め…なさい…」

「え?」

「警戒心、なくてごめんなさい。
心配かけてごめんなさい。
迷惑かけてごめんなさい」

「紅葉…さ、ま…」
「もみ、じ…」

雲英と神は紅葉の姿と言葉に、心を抉られるような痛みを感じていた。

「これからは、警戒心ちゃんと持つから。
もう二度と、心配かけないから。迷惑かけないから!
だから、だから……だ、だから……」

バッと、顔を上げた紅葉。


「私を嫌いにならないで━━━━━━!!!!」

雲英と神の目が、見開かれた。


ザッ━━━!!!!と風を切って………



そして紅葉は……雲英に引き寄せられ、力強く抱き締められていた。
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