主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「でも、雲英さん!」

「まずは、紅葉様を安全な所に移動させてからだ。
それに“一時的な”痛みだけ与えてどうする?
与えるなら、一生…心の奥底に深く痛みと苦しみを与えてやらなければいけないんだ」
紅葉に、自身の着ていたジャケットをかけながら言う。

「え?雲英さん…」

「紅葉様が受けた、何百倍もの痛みと苦しみをな」
ゆっくり、紅葉の頬を撫でる。

「そうですね」

「志岐」
「はい」

「こいつ等のスマホ、取っておけ。
俺は、車に寝かせてくる」

「はい」

雲英は紅葉を抱き上げ、ゆっくり立ち上がった。
そして紅葉の額に、自身の額をくっつけ言った。
「紅葉様、もう…大丈夫ですからね……!」

そして座敷を出る前に、振り向き言った。
「…………あぁ、志岐。
命さえあれば、問題ないからな。
でも、わからないように殺れよ?
もう少ししたら、警察が来るから。
お前まで、連行されるぞ?」


雲英を見届けて、向田達に向き直った神。
「……ってさ。
ほら、寄越せよ。
俺も連行されたくねぇし」

「志岐さん、あの人……」

「あー、知らない?
甲斐 雲英って、とんでもないおっさんのこと」

「甲斐…き…ら…はっ…!!?」
「シキ神と乙組を纏めたっていう……」

「そうそう。俺さぁー、あの人にだけは逆らえねぇんだよなぁー
あの人、こえーもん!」



「━━━━━志岐、スマホは?」
そこに、雲英が戻ってくる。

「あ、すんません。まだっす」

「は?
お前、何してたんだ?
早く終わらせて、帰りたいんだ。
車の中って言っても、安全じゃないからな」

「でも警察来たら、事情話さないとじゃ……」

「また、後日にしてもらう。
それより、スマホだ!
寄越せ、クズ共」

スマホを集め、全て確認する。
「お前等、スゲーな」
「これをちらつかせて、口止めしてたのか」

知らない女性の写真や動画が、沢山保存されていた。
そして、紅葉の写真や動画も。

「最低だな…」
神が、目を逸らしギュッと目を瞑った。

「………」
雲英の雰囲気が、更に落ちていく。

「雲英さ……」

「俺のせいだ……」

「雲英さん?」

「嫌な予感がしてたのに、止めなかった俺が悪い。
俺が、お守りするって誓ったのに……
委ねろって言ったのに……
俺が……俺のせいだ………」

雲英は、苦しい思いを吐き出すようにしてただ、スマホを握りしめていた。
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