主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「━━━━今年はどうする?」
社員の一人が言う。

「何ですか?」
紅葉、理亜、神は新入社員なので、わからない。

「毎年ね、社員達で◯◯海岸の花火大会を見に行ってるの。
花火を見ながら、出店で買った物を食べたりお酒飲んだりして!」

「へぇー!いいっすね!」
「行きたいな!」
神と理亜は乗り気だ。

紅葉も、行きたい気持ちはある。
(甲斐、良いよって言ってくれるかな?)

「紅葉さんは、どうかな?
あ!ちなみに、みんな恋人とか家族も同行OKだから!
旦那さんも一緒でも構わないよ!」

(そうなんだ!)
「じゃあ…主人に聞いてみます!」



「━━━━花火大会?ですか?」
「うん」

「社員と?」
「うん」

「………」
「……甲斐?」

「………やめておきましょう。
何があるかわかりません」

雲英の表情(かお)が、明らかに嫌がっている。

「あ!で、でもね!
家族も一緒でいいみたいなの!」

「………紅葉様は、行きたいんですよね?」
「え?」

「そんな顔をなさってますよ?」

「う、うん。行きたい!」

「僕も同行させていただけるのであれば、いいですよ?」
「ほんと!?」

「はい!」
微笑む雲英に、思わず抱きつく紅葉。

雲英も、フフ…と笑って抱き締めた。
「可愛い…紅葉様」



後日。
花火大会の会場である、海岸前に向かった雲英と紅葉。

「あ!紅葉ー!羊さんも」
「こっち!」
神と理亜が、手を振っている。

紅葉も微笑み、手を振る。
二人に駆け寄ろうとする。

「あ!紅葉様!
ダメですよ!僕から離れないでください!!」
「あ……」

紅葉は、雲英とある約束をしていた━━━━━━━


家を出る前。

『紅葉様』
『ん?もう、出なきゃ!』

『その前に、僕と約束してくれませんか?』
『え?』

『僕から離れない。と』

『え?う、うん。わかった』

『……………意味、お分かりですか?』

『え……?』



「━━━━━言いましたよね?
僕の手を離さない。
僕の視界から消えないでくださいと」

「うん」

マイペースに、神達の元へ向かった。


「改めて、こちらが主人の雲英です!」
社員達に、雲英を紹介する紅葉。

「え?」
「え?え?」
「“カイ”って、名前じゃないの?」
「紅葉さん、旦那さんのこと“カイ”って呼んでたよね?」

「え?あー、甲斐は“苗字”です!
主人は婿養子に入ってくれたので、旧姓が“甲斐”なんです。
ずっと“甲斐”って呼んでたから、今更“雲英”って呼べなくて……(笑)
本名は、空神 雲英です!」


「こんばんは。妻がお世話になってます!」
丁寧に頭を下げる、雲英。
しかし、纏っている雰囲気や見つめる視線は“警戒心”しか感じられない。
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