主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
そんな矢先━━━━━━
あの文化祭の出来事があったのだ。

シキ神と乙組、敵対するチームが喧嘩を始め、学校内がぼろぼろになっていく。


『山神さん!!志岐くん!!お願い!!やめさせて!!』

『やってるわよ!!』
『でも奴等興奮しすぎて、俺達の声が聞こえねぇんだよ!!?』

『そんな……』

するとそこに、鋭く恐ろしい声が重く響いた。

『━━━━これ以上、紅葉様の前で汚ないものを見せるな』
真っ黒い雰囲気を醸し出した雲英が、紅葉を守るように立っていた。

神と理亜の声があんなに届かなかったのに、雲英の声は通るように響いたのだ。

『甲斐!!』
『紅葉様、もう大丈夫ですよ!
しかし、ここは危ない。
今日は早退しましょう』
一瞬で、雲英を包む雰囲気が柔らかく甘く変わった。

その雲英の変わり様に、神と理亜は言葉に出来ない恐怖に包まれた。

『え?でも…』

『おい、おっさん!!』
そこに、チームの男が雲英に掴みかかってくる。

後ろから向かってくる拳を、瞬時に受け止める。
『紅葉様、もう少しお待ちを』
紅葉に微笑み、男に向き直った。

『もう一度言う。
“紅葉様の前で、これ以上汚いものを見せるな”
三度目はない。
早く、退け』

『……っ…』
雲英の恐ろしい殺気。

思わず、後ずさる。

『このおっさん、ヤベー』
『そうね』


この出来事で理亜は、紅葉に興味が湧く。
『ねぇ、空神…さん』
『ん?』

『なんで、今まであの羊に助けてもらわなかったの?』

『え?』

『私、あんたにかなり酷いことしてきただろ?
胸ぐらを掴んだり、脅したり、先月捻挫したのも私のせいだし。
あんなこえぇ男がいんなら、とっくに私━━━━━』

『山神さんは、お友達だからだよ!』

『は?』

『山神さんと私の間に、甲斐は関係ない。
それに……私は、自分の足で立ちたい!
甲斐に助けてもらってばかりだと、きっと……甲斐は私を対等に見てくれないから』

『え?』

『あ…/////と、とにかく!
甲斐には関係ないの!』



「━━━━━羊さんは知らないだろうけど、私はかなり紅葉に酷いことしてきました。
でも紅葉は“友達だから”って、受け入れてくれた。
それに文化祭の一件から、クラスメートの態度もがらりと変わった。仲良くしてた子は、手の平を返したように紅葉から距離を置いた。
みんなよそよそしくなって、紅葉はかげでいつも泣いてたんですよ?
それでも、羊さんの前では笑ってた。
“心配かけたくない。自分でどうにかする!”って言ってた。
羊さん、亞嵐さん、神。
紅葉は私よりももっと、強い女です!」
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