悪役令嬢はクールな魔道師に弟子入り致します
 むせび泣いている彼女の顔を見た。
 そして、目を合わせた。

 セシルは彼女を失うかもしれないと思った瞬間、その恐れと王太子への怒りで自分の力が暴走しそうになった。
 それで気付いた。

 自分がどれだけ彼女を大切に思っていたのかを。そして、もし彼女を取り戻せたら、これからは自分の側にずっといてほしいと告白することを決めていたのだ。

 彼女の頬の涙を手で拭いてやると、口を開いた。
 
 「リリアーナ。もうこれからはずっと俺の側にいるんだ。いいな。そうすれば怖いことや嫌なこと、どんなことからも俺がお前を守ってやる。どこにも行かないでくれ。頼む。心配でおかしくなる」

 リリアーナは驚いて、セシルをじっと見た。そして、微笑んだ。

 「私もひとりになったとき、ずっとセシルのことだけ思い出して考えていたの。セシルって口に出すと頑張れた。助けに来てくれてありがとう」

 そう言って、セシルにしがみついた。
 
 セシルはリリアーナを抱きしめると周りをじっと見つめた。すでに日が落ちている。

 「リリアーナ。俺は転移の術を使いすぎて少し力が足りない。今夜はここで野宿だ。明日になれば少しは力が戻るので、帰れると思う。場所も把握しているので、リアムに連絡すれば迎えをよこす可能性もある」

 「うん」

 「少し待ってろ」

 そう言って、リリアーナに剣を握らせ、セシルは森で木の枝を拾い始めた。
 
 そして、帰ってくると木の枝に火をおこし、マントの中に彼女を入れてやった。

 「食事はしたか?水は飲んだのか?」

 リリアーナは頭を上げてセシルを見ると答えた。

 「……あ、うん。湖に出るまでに果物や木の実を拾ってここまで来たの。色々教えてくれてありがとう。私、そのお陰で今生きていられるんだと思う」
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