3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇


それから程なくして、ようやく落ち着いた私は、家まで送って頂けるということで瀬名さんの車に乗り込んだ。

泣いてしまったせいで、行きの時と違い、帰りの車内には長い沈黙が流れる。

ただ瀬名さんの馴れ初め話に感動しただけであれば、きっとこんな重たい空気にはならなかっただろう。

もしかしたら、彼も何か違和感を感じているかもしれない。

けど、それならそれでもう仕方のない事かもしれないけど、とりあえず私のせいでこのまま沈黙が続くのは流石に良心が痛むので、ここは無理矢理でもこの雰囲気を打破しようと意を決した。


「今日は本当に大丈夫だったのですか?同期と言っても女性と二人で食事なんて、婚約者の方は心配されませんでしたか?」

もっと違う話題を選べば良かったものの、折角私のことを気に掛けて頂いてた瀬名さんを、まるで責めるような言い方になってしまい後から後悔が押し寄せてくる。

「それは全然平気。むしろ今回のは彼女の方から提案されたから。君の事を話したら俺以上に心配してくれててさ。実はこの前あげたお菓子も、彼女が友達と遊びに行った時に買ってきてくれたんだ」

けど、瀬名さんはそんな事は全く気にもしていない上、むしろ嬉しそうに打ち明けてくれた話に、私は再び打ちのめされてしまった。


まさか、あの時のお菓子は婚約者の方が用意して下さったなんて……。

それに、瀬名さんと私が食事に行くことに対して全く気にしないという事は、それだけ彼に愛されている自信と信頼がある証拠なのでしょう。


……。


……ああ、どうしましょう。

また泣けてしまいます。


結局自分で自分の首を絞めてしまった結果に終わり、またもや涙腺が緩み始める状態に、今度はかなり激しい後悔が押し寄せてきた。



「……そういえば、あの時話が中断されちゃったけど……」

すると、急に話題を変えてきた瀬名さんの後に続く言葉が気になり、私は視線を彼の方へと向ける。

「俺、今まで東郷様って非常識で横暴な人間だと思ってたんだ。そのせいで何人も辞めたり辞めさせられた人を見てきたからさ。……俺らのトップに立つ方だけど……正直嫌いだった」

何を切り出されたのかと思いきや、再び楓様の話になった上に、瀬名さんがこれまでに抱いていた想いを知らされ、私は目を丸くする。

「だから、さっきの話じゃないけど、そんな人から専属バトラーに君が指名されたって聞いて凄く驚いたけど、それよりも君が辞めないか心配だった。天野さんってホテル業を生き甲斐に感じてるでしょ?俺もこの仕事が好きだから君の気持ちは良く分かるんだ」

そして、先程のやり取りでもそうだったけど、そこまで瀬名さんに気に掛けて頂いた理由が今ここで何となく分かった気がした。

きっと瀬名さんは自分と私を重ねていらっしゃったのでしょう。

同じようにホテル業を好きな人間が堕ちていくのを見ていられない。ましてや、それが同期なら尚更。

だから、私をここまでフォローして下さり、手を差し出して下さる。

やはり、瀬名さんは何処までも素晴らしい方で、何処までも温かい方であると。そう想うのは、もうこれで何度目になるだろうか……。
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