3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇


「今日は本当にありがとうございました」

あれから数十分後。自宅のアパート前に到着し、私は車から降りると、送って下さった瀬名さんに深く頭を下げる。

「こちらこそ。今日は楽しかったよ」

運転席の窓から眩い笑顔を振りまきそう応えてくれる瀬名さんはやはりとても素敵で、叶わぬ恋とは分かっていても胸がときめいてしまう。

「あ、あの……」

それから、私はお店を出てからずっと悶々としていた気持ちを今ここで晴らそうと、意を決して拳に力を込める。

「遅くなってしまいましたが、ご結婚おめでとうございます。もし、挙式をなさるなら是非お声掛けして頂けると嬉しいです」

そして、先程の自分では考えられない程の柔らかい笑顔を浮かべ、私は瀬名さんにお祝いの言葉を述べた。

「ありがとう。勿論そのつもり。彼女もきっと喜んでくれるしね」 

瀬名さんもとても嬉しそうに、少しはにかむような笑顔を私に向けてくれて、その表情を見たら、段々とは胸の突っかかりが取れていくような気がした。


ちょっと前までは祝福したいという気持ちなんて湧かないくらいショックだったのに。

この凄まじい立ち直りの早さと、ここまで言えた自分に内心かなり驚いている。

けど、おそらくそのきっかけとなったのは、あまり認めたくはないですが、楓様なのでしょう……。
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