3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから、瀬名さんと別れて、私は部屋の前で立ち止まると鍵を開けて中へと入る。

扉を閉めたと同時に、何だか身体中の力が一気に抜け落ち、ずるずるとその場でしゃがみ込んでしまった。

今朝家を出た時は、これ以上ないくらいの幸せな気持ちだったのに、まさかこんなに打ちのめされて帰ってくるなんて、あの時の私は知る由もなかったでしょう。

けど、遅かれ早かれこうなる運命だった。

だから、まだこうして本人の口からちゃんと聞けただけマシだったのかもしれない……。

瀬名さんの彼女に対する愛の深さも知った。


だから、これで良かったのかもしれない。

とても辛いけど、笑顔で祝福する事も出来たから……。


それもこれも、全部楓様の存在があったからこそ。


知らぬ間に、私の心はあの方で埋められていた。

こうして、失恋してしまった悲しみが和らぐ程に、私の心の奥底へと染み込んでいた。



……もう、ダメです。

誤魔化せません。


皮肉にも、この失恋で楓様への気持ちが分かってしまった……。


そう思った瞬間、一筋の涙が零れ始める。


この涙の意味が、一体何なのか。

打ち砕かれた絶望感なのか、それとも楓様への恋心に気付いてしまった喜びなのか、もしくは困惑なのか。よく分からない。

けど、確かなことは、もう後には戻れないということ。

それと、御子柴マネージャーや、瀬名さんが仰っていたとおり、これからも自分の気持ちを正直に示し続けること。

それで自分がどうなってしまうのか……正直怖い。


でも、今はもう前に進むしかない。


そう確信した私は、その場から動くことが出来ず、気持ちが落ち着くまで、暫くうずくまりながら涙を流し続けたのだった。
< 119 / 327 >

この作品をシェア

pagetop