3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
すると、瀬名さんの腕が不意に伸びてきて、右肩にそっと優しく手を置かれた私はびくりと体が小さく震えた。

「……確かに、君にも立場があるだろうから、あまりこういう話は軽々しく言いたくないけど……」

そこまで言うと、瀬名さんはいつもの温かい眼差しでこちらを見据えてきて、思わずその瞳に見入ってしまう。

「でも、少しは俺を信じてくれると嬉しいな」

そして、眩しい程の満面の笑みを見せられてしまい、私はそれ以上反論することが出来なかった。

「……そんな言い方はずるいですよ」

いつも相談に乗って頂いて、その度に沢山のアドバイスをして下さる瀬名さんを信じられないなんて、言える訳がない。

だから、少し頬を膨らませて、せめてもの抵抗を私は示した。


その時、不意打ちの如く突如業務用の携帯が鳴り始め、もしやと思い私は慌ててポケットからそれを取り出すと、相手を確認せず直ぐに応答ボタンを押した。

「天野様、折り返しの連絡が随分遅くなって誠に申し訳ございませんでした」

案の定。
電話口では少しトーンの落ちた白鳥様の声が聞こえ、その瞬間涙が溢れ出しそうになった。

「……あ、し、白鳥様……」

ようやく聞きたかった声が聞けて、これまでの思いが溢れ出し、声が震えてくる。

「か、楓様は一体どちらにいらっしゃるのでしょうか?」

それから、ずっと抱え込んでいた疑問を吐き出すと、私は徐々に速さを増していく鼓動を抑えながら、緊張した面持ちで白鳥様の返答を待つ。

「……それなんですが……、もうすぐそちらに到着するので、玄関前に来て頂いてもよろしいですか?」

「は、はい!かしこまりました。直ちに向かいますので!」

何故か言葉を濁してきた反応が不思議ではあるけれど、意気消沈していたところ、既にこちらに向かっているという状況に私は慌てて通話を終了させた。

「良かったね」

そのタイミングで、すかさず瀬名さんが柔らかく微笑みかけてくれて、その笑顔に雲掛かっていた気持ちが徐々に晴れていく。

「はい!それでは、行って参ります!」

そして、気付けば満面の笑みを向けながら私は大きく頷くと、瀬名さんに別れを告げて、急いで玄関先へと駆け出して行ったのだった。
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