3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇





「……楓様?大丈夫ですか?」


意識がぼんやりとする中、俺はうっすらと目を開くと、そこには美守の顔が視界いっぱいに広がっていた。

「ずっとうなされていましたよ。お顔も汗びっしょりで……」

そう言うと、美守は心配な面持ちになりながら乾いたタオルで額に流れる汗を優しく拭き取ってくれる。

その瞬間、悪夢によって締め付けられていた心が段々と和らいでくるようで、強ばっていた体が徐々に解れていく。


…………ダメだ。


また、俺はこいつに触発されてしまう。

また、この温もりを求めてしまう。

だから、これ以上こいつに触れてはいけないのに。


そう心の中で何度も警告するものの、悪夢のせいで今の俺はこの心地良さをなかなか振り解くことができない。


目的を達成するためなら、何もいらないはずだった。

それなのに、美守に触れられる度に欲求が膨れ上がってきて、今まで満足していたものが満足出来なくなっている。

これ以上多くを求めてしまったら、ただ自分の首を絞めるだけだ。

ましてや、人を求めるなんて、これまでの人生の中で一番くだらないと思っていたことなのに……。



「楓様、水分を摂って下さい。こんなに汗もかかれていますから」

すると、起きあがろうとする俺の肩に美守はそっと手を回して支えると、傍に用意されていたペットボトルのスポーツ飲料水をもう片方の手で持ち、俺の口元へと運んだ。

そのまま俺は美守に飲ませて貰うことにして、カラカラに乾いた喉に水分が通っていき体が潤ってくる。

東郷家に引き取られて以降、人からこんなに手厚く看病されたことなんて今までなかったせいか、早くこいつの温もりから離れなければいけないのに、体が言うことをきかず、そのまま身を委ねてしまう。

本当なら、自分の目的が揺らいでしまう前に、早く美守を突き離さなくてはいけないのに。

心の奥底でそれを拒否する自分がいる。

母親に言われた言葉をまだ諦めたくない、消し去ったはずの幼い頃の自分が確かにまだ存在している。

そのせいで、今も俺はこいつをなかなか拒むことが出来ない……。
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