3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜


「ここが大型スーパーで良かったです。一通り揃ってそうですね」

店内はとても広く、食材コーナーとは別に調理器具コーナも充実しているところを見る限りだと、何とか課題はクリア出来そうな状況に私はホッと胸を撫で下ろす。

「けど、その事を話して下さらなければ、危うく路頭に迷うところでしたよ」

本当に、そういう大事な事はもっと事前に仰って欲しかったと。
私は頬を膨らませながら、隣に立つ楓様を軽く睨みつける。

「悪かったな。そういうの無頓着だから全然気付かなかったんだよ」

そんな私の視線を受け、楓様は渋い顔でそう仰ると、きまりが悪そうに私から目を逸らした。

その反応に、普段は隙のない彼もそんな一面があるのかと思うと、何だか可愛く思えてきてしまう。


「それより、プライベートの時くらい業務用の口調じゃなくてもいいだろ。名前も呼び捨てで良いから」

すると、突然話し方について指摘をされてしまい、意表をつかれた私は一瞬その場でたじろいでしまった。

「あの……敬語なのは元々の癖でして誰に対してもそうなんです。あと呼び捨ては絶対に無理です」

だから、誤解がないようにしっかりと説明した後、今まで男性を呼び捨てしたことがないため、恥ずかし過ぎて最後の要求だけは呑めないと強く否定する。

「まあ、美守だしな」

それなのに、反論されるかと思いきや、あっさりと納得した挙句、何やら嫌味のような言い方に私はまたもや頬を膨らませてしまう。

「とにかく“様”は止めろ。余所余所しいし、仕事みたいで嫌なんだよ」

しかし、呼び方の変更については引き下がる事はせず、そこまで強く仰られてしまっては変えざるを得ない状況に、私は頭を抱えてしまった。

「そ、それでは……か、楓さんでよろしいですか?」

せめてそれくらいなら。というかそれくらいしか呼べないので、これで勘弁して頂けないかと懇願するような目で彼を見上げる。

「しょうがないな。けど、呼び捨ては諦めてないから」

とりあえず、渋々ではあるも承諾はして下さったけど、最後には強めの口調で念を押されてしまい、何故そこまで拘るのかいまいちよく分からない私は、一先ず首を縦に振った。


「では、早速色々と買っていきましょう。先ずは包丁とまな板は必須ですね。あとはフライパンと鍋とボールとお玉とトングと……」

それから気を取り直して調理器具コーナーへと向き直すと、私は調理過程をイメージしながら必要な道具を思い浮かべる。

これまで料理に対して食材を考えるのは当たり前の話だけど、調理器具から考えた事はなかったので、抜けがないか心配にはなるものの、万が一買い忘れてもきっと他で代替出来るでしょうと思いながら、思いつく限りのものをカゴに入れていく。
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