3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
__数時間後。
今日は無事に仕事が定時で終わり、引き継ぎをしてから私は舞い上がる気持ちで制服から私服へと着替える。
昨日一日中一緒にいたのに、また会えると思うだけでつい顔がにやけてしまう。
けど、今日は本当にただ忘れ物を取りに行くだけなので、会えてもほんの僅かな時間しかない。
私はあれから家に帰って楓さんの家にエプロンを置き忘れたことに気付き、直ぐに連絡をとった。
楓さんは次に向けて置きっぱしのままでいいと仰って下さり、凄く嬉しかったけど、会う口実を作りたい気持ちの方が勝ってしまい、私は少し強引に今日の約束を取り付けてしまったのだ。
何とも身勝手な振る舞いであると自覚はしているけど、楓さんは明日から長期の海外出張が始まるのでホテルの宿泊も当分未定だし、プライベートなんて尚更会う余裕はない。
だから、その前に少しでも会いたくて。そんな私の我儘を、楓さんは承諾して下さった。
それから私は従業員用冷蔵庫から用意したあるものを取り出し、更衣室を後にする。
ホテルを出て、すぐ隣にある楓さんの職場。
付き合い始めてからこの環境がどんなに素晴らしくて有難いことか、今ここで改めて身に染みて感じる。
しかも、今まではバトラーとして赴いていたけど、これから恋人として赴くと思うと、何だか心が宙に浮くようなフワフワとした気持ちになって、早く楓さんに会いたくて堪らなくなっていく。
そんなはやる気持ちを抑えながらオフィスビルの入り口を通過すると、私は少し緊張気味に受付へと向かった。
これまでは仕事だったので特に何も感じなかったけど、今回はプライベートで訪ねるので妙に身構えてしまう。
その空気が伝わってしまったのか、もしくはホテルの制服ではなく私服姿だからなのか。対応して下さった受付の方からとても怪訝な目で見られてしまった。
そんな視線を受けて私はたじたじになりながら受付前で待機していると、程なくしてロビーの奥にある応接室へと案内されたので、ひとまず高級感漂う牛革のソファーに腰掛ける。
ここを訪れるのはこれで三回目になるだろうか。
一回目は確かクリーニング済みの上着を楓さんに届けた時。二回目は宿泊前の荷物を受け取りに行った時だった。
思い返してみると、なんだかんだで楓さんが直接来て下さるのはこれが初めてだということに、胸の高鳴りが徐々に激しさを増していく。