3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜


「…………あの女、人の彼女に近付いてよくもまあ、あんな嘘を……」


それから、以前百合さんと二人で食事をした事、それ以降もちょくちょく連絡を取り合っている事を話し終えると、一間置いてから、怒りで震えた楓さんの声が聞こえてきた。

「あ、あの楓さん?百合さんは良いお友達ですよ?それと、私にとっては素敵なお姉さんです」

まるで、恋敵に対して言う台詞のように聞こえたので、誤解のないように慌てて付け加えると、今まで年上の方とここまで深い付き合いをした事がなかったので、嬉しい気持ちがつい言葉に滲み出てしまう。

「だから、あいつは下手な男よりタチが悪いんだよ!くそっ、覚えてろっ!」

それなのに、楓さんの怒りは収まるどころか何故だか最骨頂まで達してしまい、訳が分からない私はただ狼狽えるしかなかった。
一方、楓さんがここまで悔しがる様子も初めてだったので、彼が嫉妬するとこうなるのかと。心の片隅では何処か冷静に観察する自分がいる。

「か、楓さん。私はこれからも百合さんと交流を続けたいのですが、よろしいですか?」

兎にも角にも、百合さんとは良いお付き合いをしていきたいので、何とか彼に了承を得てもらおうと、必死で懇願してみる。

「…………まあ、友人としてならな。けど、何かあったら直ぐ俺に言えよ」

声からするに、あまり納得していない様子の上、最後にはキツく念を押されてしまい、一体何があるのだろうと疑問に感じながらも、私はとりあえず二つ返事をした。

それから、暫くの間身の上話をした後、楓さんはまだやることが残っているので、名残惜しい気持ちを何とか抑えながら、私達はそこで通話を終了させた。

それと同時に襲い掛かってくる恋しさと虚しさ。
そして、改めて求めてしまう彼の温もり。

これまでも何回か電話はしているけど、楓さんとの繋がりが切れる度に余計彼への想いが募ってしまい、触れられない切なさに胸が苦しくなってくる。

これが世に言う遠距離恋愛の辛さなのか。
付き合い初めて一週間ちょっとでもうこんな経験をしなくてはいけないなんて、なかなかに酷な話だと我ながら思うけど、それも、もう少しの辛抱。

先程の話からもそうだったけど、もしかしたら、本当に来年のクリスマスは一緒に過ごせるかもしれないと。
そう、自分を奮い立たせながら、私は再び満天の星が輝く冬の澄んだ空を見上げて、強く願いを込めた。
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