らんらんたるひとびと。~国内旅編~
 食堂で新聞を読んでいる姿が見えて、鈴の心臓が急激にバクバクと動いた。
「おはようございます、父上」
 緊張を悟られまいと平常心を装いながら、鈴が挨拶をした。
 どっしりとした風格で座る60代の男こそ、鈴の父親だ。
 父親の横に座る母親は10年前と比べると変わってしまったと感じるが、
 父親は白髪が増えただけで特段、変わった様子は見られなかった。
 立派な髭に白髪まじりのふっさふさの髪の毛。
 大きな目に、引退したとはいえ、頑丈な身体つき。

 別れる前は、現役のケリー侯爵当主だったので。
 近寄るのも怖いと思っていたが、幾らか丸くなったように見える。
「おはよう」
 父親は普段あまり喋らない。
 寡黙というわけではないが、用がない限りは喋らない。

 鈴は「私の部下、ホムラです」とホムラを紹介して。
 ホムラも一緒に食事をする旨を伝えた。
 食卓に並ぶ、豪華な食事を見て、鈴は帰ってきたことを改めて実感する。
 北部のドラモンド家も料理の品数は多い方だか、色味がほぼ白か茶色だ。
 肉、魚。色とりどりの野菜で作ったサラダ。
 芋入りのパン。

 母親がこの10年の出来事を埋めるかのように、一方的に喋り父は黙っている。
 鈴はひたすら、母の話に耳を傾け相槌を打った。
 食後のお茶を飲んでいるときになって、ようやく鈴はツバキ団長側の人間がどこに行ったのか気になった。
「あいつらは?」
 ホムラに訊くと、ホムラは持っていたティーカップを置いた。
「…まだお休みになられているかと」
「そうか」
 まあ、自分には関係のないことだが…と言おうとしたが鈴は口を一文字に閉じた。

「失礼します」

 いそいそと入ってきた執事は皆の前で頭を下げる。
「ドラモンド侯爵様がお越しです」
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