転生アラサー腐女子はモブですから!?
「た、高いぃぃぃぃぃ」

 あまりの高さにアワアワし出したアイシャを落ち着かせる様に腰を抱く腕の力が強まり、キースの腕の中へと引き寄せられる。

「これなら怖くないだろう?」

 すっぽりと抱き込まれた状態に、少しずつ落ち着きを取り戻したアイシャの様子を見て、キースがゆっくりと馬を走らせる。ただ練習場の柵の中をクルクル回っているだけなのに、高い位置から見る景色は新鮮で、時々吹く爽やかな風が心地よい。

 ゆっくりと伝わる振動に身体が慣れ、馬の高さや揺れに順応し出せば、周りを見る余裕も出てくる。それと同時に感じる気恥ずかしさは、キースの胸板に背中を預けているからだろうか。

(近いよぉぉぉぉ……)

 背中から伝わる熱に、アイシャの頬も熱くなる。

「離れようとすると危ない。慣れて来たようだしスピードを上げよう」

「――――っ!!」

 そっと前へ逃げようとしたアイシャの行動に気づいたのか、腰を抱く腕に力がこもり、急に走るスピードが上がる。馬の速さに驚き、とっさに腰を抱くキースの腕をつかんだ。

「怖い? 大丈夫、すぐ慣れるから」

 キースの言葉通り、数周もすれば速さにも慣れ、馬で駆け抜ける爽快感に、アイシャの心も高揚する。

「キース様! 馬って楽しいですね。もっともっと、遠くへ駆けてみたいわ!」

「では、明日一緒に遠駆けへ行こう! ナイトレイ侯爵領の森には綺麗な場所が沢山ある」

「えぇ! 楽しみだわ!!」

 馬で駆ける楽しさに魅せられていたアイシャは気づかなかった。アイシャとの近しい距離感にキースが満足気に笑みを浮かべていたなんて。

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