転生アラサー腐女子はモブですから!?

獲物発見!!

 船旅が始まって三日目、アイシャは毎日の日課である甲板人間観察を実行していた。

 甲板の日除けの下に置かれたベンチに座り行き交う人々を本を読むフリをして眺める。男同士のキャッキャウフフを妄想する実に有意義な時間だ。

 大型客船はフロアにより、上流階級しか立ち入れないエリアと平民他、誰もが立ち入れるエリアと、はっきり区別されている。ロビー階から上は貴族エリア、それより下は平民エリアと分ける事で不要な争いを防ぐ意味合いも兼ねているらしい。

 そして、貴族エリアはさらにロイヤルスウィート滞在者しか入れない特別なエリアもあるが、アイシャにとっては平民、貴族入り乱れる甲板こそがパラダイスだ。特別エリアには全く興味がない。そんな所に行ったら最後、リアムにどんなセクハラ紛いの行為を受けるかわからない。

 初日にだまされた事を許したのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。あの日からリアムのアプローチは徐々にエスカレートしてきている。

 昨夜も星が綺麗だからと、ロイヤルスウィート専用の特別エリアにあるデッキへと誘われた。もちろん星は文句なしに綺麗だった。二人でデッキチェアに寝そべり見上げた空は、星が降り注いでいるかのように美しかった。

 だが、二人きりと言うのがまずかった。

 専用デッキに着くまでは、執事もアイシャ専属の侍女もいた。しかし、気づいた時には、二人とも居なくなっていた。未婚の男女を二人きりにするのは、ウェスト侯爵家にとっても色々と不都合があるだろうに、示し合わせたように消えていた。まぁ、リアムの指示だろうが、そこはウェスト侯爵家の使用人として主人に物申して欲しかった。

 星を見上げたと思った先にリアムの顔面どアップが迫って来た時は、思わず両手でリアムの顔を押しのけてしまった。

 あれは女としても、どうかと思う。顔を背けて恥じらうのが正しい対処方法だった気もする。

 床に胡座をかき、肩を震わせて笑っていたリアム。

(私に恋愛経験があれば、もっとスマートに対処出来たのかしらね。きっと、リアムは私の態度に呆れて笑っていたのよ……、本当居た堪れないわ)

 アイシャの心に巣喰ったモヤモヤは、相変わらず晴れないままだ。

(考えても答えなんて出ないのだから、考えるだけ無駄ね! そんな事より、あの方はいるかしら?)

 今日は、ある決意を胸に甲板にやって来たのだ。
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