転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アナベル様は、幼い頃からノア王太子殿下だけを愛し、努力なさってきたのですよね。でしたら、ノア王太子殿下を奪いたいとは思いませんの?」

 ノア王太子殿下を奪いたい? そんなの決まっている。

 アナベルの心の中で湧きおこったドス黒い感情がうずを巻き、吹き出しそうになる。

(奪えるものなら、奪いたい。ノア王太子殿下のお心を奪ったアイシャ様から、奪ってやりたい)

 アナベルは、泣き腫らした顔を上げ、目の前に座るアイシャを睨みつける。

「貴方から奪えるものなら、奪ってやりたいわよ!!」

「なら、奪えばよろしいかと。わたくし、協力は惜しみませんわよ」

「――――はぁっ!? あ、あなた、何を言って……」

 腕を組み、不敵な笑みを浮かべ紡がれたアイシャの言葉に、アナベルは押しだまる。

「私、王太子妃なんてまっぴらゴメンですの。王太子妃は、次期王妃ですわよね。ポッと出の令嬢に務まる仕事とは到底思えません」

 確かに、アイシャの言う通り、王太子妃の立場は、ポッと出の令嬢が務められるほど簡単なものではない。幼少期から王城へと通い、教育と言う名の様々な試練を絶え抜き、過酷な生存競争に勝ち抜いた令嬢だけが、やっと王太子妃候補として、王太子殿下の御前に立てる。

 その教育の過酷さと、教師陣による厳しい選別で、脱落していく令嬢は後を絶たず、幼少期には数十名もいた候補令嬢は、最終的には十名にも満たない人数へとしぼられる。

「そうね。ポッと出の令嬢には、難しいと思うわ」

「ですよね! しかも好きでもない男のために、一から王太子妃教育なんて、考えただけでゾッとする。アナベル様には申し訳ありませんが、はっきり言って時間の無駄です。幼い頃から王太子妃教育を頑張って来られたアナベル様こそ、ノア王太子殿下の婚約者になるべきです」

「しかし……、ノア王太子殿下がお選びになったのは、アイシャ様ですわ」

 そう、ノア王太子殿下が選んだのはアイシャ様。幼少期からの王太子妃教育を耐え抜き、妃候補筆頭になったとしても、ノア王太子殿下に選んでもらわなければ、なんの意味もない。

 そして、ノア王太子殿下に選ばれたアイシャ様が、彼との婚約を拒否することも、また出来ない。エイデン王国の王族からの申し出を、伯爵家が断ることなど出来ないのだから。
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