転生アラサー腐女子はモブですから!?

特別な距離感

「うふふ、ふふ……、アナベル様、ゲット!! いやぁ~、有意義な話し合いだったなぁ」

 アナベルと別れたアイシャは、私室へと続く船内の廊下を歩きながら、あふれ出す喜びのままに声を出す。もはや、込み上げる笑いを抑えることも出来ない。うつむき、クスクスと笑いながら廊下を歩くアイシャの姿は、すれ違う通行人が振り返るほどには不気味だ。

 しかし、アナベルという巨大な味方を得たアイシャにとって他人の目など、些末なことだ。鼻歌混じりに狭い廊下をスキップしながら歩くアイシャの頭の中では、ノア王太子防波堤計画を練ることで忙しい。

 ノア王太子が、アナベルの存在をどれだけ意識しているかは不明だ。しかし、アイシャという存在が、しゃしゃり出てくるまでは、アナベルが王太子妃候補筆頭だったのだのだから、ただの知り合いという立ち位置ではないだろう。

(アナベル様も、婚約間近だったって、言っていたしね)

 ノア王太子は立場上、とても忙しい身の上だ。ましてや王族。おいそれと、王都から離れて過ごすなんて、無理だろう。警備の問題もあるし、ノア王太子と過ごす一週間は、王城に呼び出されるのが、妥当な案か。そうなればアナベルも一緒に連れて行けばいい。

(クレア王女に、協力をお願いしたいところだけど……、あのお方は、なぜかノア王太子と私をくっつけようとしてくるからなぁ)

 ただ、クレア王女の協力は是が非にも欲しい。ノア王太子防波堤計画について、ダメ元で伝えておこうかしら。出方次第では、案外協力する気になるかもしれない。

 そんな事をツラツラと考えながら、ロイヤルスウィートへと続く螺旋階段を登っていたアイシャは、リアムが階段を降りて来ていたことに気づいていなかった。

「アイシャ、うつむいて歩いていたら危ないよ」

「――――へぇっ??」

 突然頭上から降ってきた言葉に、足を止めたアイシャが顔をあげれば、リアムの眩し過ぎる笑顔が目に飛び込んできて、心臓が跳ね上がる。思いの外、近しい距離にいたリアムにアイシャが驚き、一歩足を引いた瞬間、バランスを崩し落ちていく。

(マ、マズい、落ちるぅぅぅ!!)

「ほら、危なかった」

 とっさに伸びたリアムの手に腕をとられ、引き寄せられたアイシャの身体は、そのまま彼の胸へとスッポリ収められてしまった。トクトクと、耳から聴こえてくるリアムの心音と、自分の鼓動の音が重なり、速くなっていく。

(イヤイヤイヤ、そもそもリアム様が突然、声をかけなければ危なくなかったでしょ!)

 そんなツッコミを心の中でしていなければ、リアムに抱きしめられているという状況に、高鳴る胸の鼓動を、抑えることも出来ない。日々、エスカレートしていくアプローチにアイシャは、リアムを男性として意識するようになっていた。
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