転生アラサー腐女子はモブですから!?

恋心と不安

 リアムと過ごす船旅の最終日。

 アイシャは朝から侍女の手により、船旅最後の夜に開かれる仮面舞踏会に向け、身体をピカピカに磨かれていた。贅沢にも部屋に備えつけのバスタブにゆっくりと浸かり、キラキラと輝く海面を小さな丸窓から眺め、リアムと過ごした日々を思い出す。

 この船旅が始まる前までは、自らの意思でリアムにキスをする日が来るなんて、思ってもみなかった。己の趣味を暴露し、彼が認めてくれた日、心の奥底で燻っていた恋心を自覚したのだと思う。

 腐女子であることを言うのが怖かったのも、趣味を暴露し彼に笑われた時、悲しみで怒りが沸き起こったのも、それが誤解だと知り、心が喜びに満たされたのも、全てリアムが好きだったから。

 恋を自覚してしまえばリアムの言動に、一喜一憂してモヤモヤしていた理由もわかる。

(まるっきり、恋する乙女の反応よね)

『男女の駆け引きに疎い私を揶揄って遊んでいるだけ』と思うたび、心の奥底で感じていた痛みも、女として見られていないと悲しかったから。

 リアムからの好意を、素直に受けとるようになってからのアイシャは、幸せだった。二人だけの食事も、デッキチェアに寝そべり、たわいない会話をするのも、ロイヤルスウィートのソファで昼寝をするリアムに、膝枕をするのも、二人で一緒に過ごす時間は幸せに満ちていた。

 今日の夜会を最後に、リアムとの船旅が終わってしまうのかと思うと寂しくて仕方がない。

(でも、下船してからの方が、色々と忙しくなるわね)

 まずは両親に、リアムからのプロポーズを受けたと伝え、許してもらう必要がある。そして一番の難関、ノア王太子との一週間。時間的にも、反故にすることは出来ないだろうから、リアムと婚約すると伝え、納得してもらわなければならない。もちろんアナベル様とノア王太子をくっつける事が出来たら万々歳だ。
 
 そして、キースへも、お断りをしなくてはならない。ナイトレイ侯爵領で過ごした日々は、温かな思い出として心に残っている。キースとのわだかまりもなくなり、今では友と呼べる関係にまで成れたと思っている。誠意を持って、リアムとのことを伝えなければダメだ。

「アイシャ様、そろそろ湯船から上がった方がよろしいかと思います。夜会の準備も致しませんと。それに、のぼせてしまいますわ」

 侍女の声に、思いの外ゆっくりしていた事に気づき、慌てて湯船から上がる。

「ごめんなさい。すぐ出るわ」

「バスローブをご用意してありますので、ゆっくりお越しくださいませ」
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