転生アラサー腐女子はモブですから!?
幕間

ノア王太子の思惑【リアム視点】

 船旅を終えたリアムは、ウェスト侯爵家の馬車に揺られ、王城へと急ぎ向かっていた。

 アイシャとの将来を考えれば、すぐにでも行動を起こさなければ、間に合わなくなる。悠長なことなどしてはいられない。

 ウェスト侯爵領から王都までは、馬車で数時間の距離だ。遠い距離ではない。焦ったところで、仕方ないことは、わかっている。しかし、次に控えるノア王太子のことを考えれば、ジッとなどしていられなかった。

 ゆっくりと進む車窓を眺め、焦りだけが募っていく。

 アイシャとの船旅は夢のような時間だった。まさか、こんなに早く応えてくれるとは思っていなかった。だが、アイシャは結婚を了承してくれた。しかし、簡単には結婚出来ないのが現実だ。今更ながら、四家で交わした密約を苦々しく思う。

『白き魔女の婚約者の決定権はリンベル伯爵家にあるが、結婚に関しては王家、ナイトレイ侯爵家、ウェスト侯爵家の承諾を必要とする』

 何百年も前に交わした密約など、さっさと反故しておけば良かったものを。こんな密約さえなければ何の問題もなく彼女と結婚出来るのに。

 アイシャとの結婚に立ちはだかる大きな壁を思い、リアムの胸に鬱屈とした気持ちが込み上げる。

 アイシャを政治利用するため手に入れようと考えているであろうノア王太子とは、まだ交渉の余地はある。しかし、キースに関してはハッキリ言って対処法が浮かばない。キースの彼女への想いがどれほどのものかも、分からない。ノア王太子のように交渉してどうこう出来る相手でないのが、頭の痛いところだ。

 キースは実直過ぎる。正統派の騎士としては正しい姿なのだろうが、融通が効かない頑固な一面がある。自身が納得する理由が無ければアイシャを諦めてはくれないだろう。

(さて、どうしたものか……)

 リアムは天を仰ぎ、深いため息を吐く。

「リアム様、王城へ到着致しました」

 御者の声に気を引き締める。

 外側から扉が開かれ、馬車を降りたリアムに、門扉の前で待機していた侍従が恭しく礼を取り、ノア王太子の待つ執務室への案内を申し出る。

(先触れの使者から、あの方へはすでに話が伝わっているようだな)

 ノア王太子が何の条件も出さず、婚約者候補を降りるとは考えられない。どんな要求を飲まされるか分からないが、それ以前にこちらの提案すら一蹴される可能性もある。あの方が同意せざる負えなくなるだけの材料は用意して来た。あとは、あの方の雰囲気に呑まれなければ、きっと上手くいく。

(まずは、第一難関を説得しなければ……)

 勝手知ったる王城内、リアムは侍従の案内を断り、ノア王太子の執務室へ向け歩きだした。
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