転生アラサー腐女子はモブですから!?
「――――要求ですか? 簡単には認めないと言う訳ですね。それで、その要求とは何ですか?」

「もう一人の白き魔女、グレイス・ドンファンの真価を見定めるため、彼女に近づき情報を集めること。リアムにとっては簡単な仕事だろう? 君の諜報能力は優秀だと聞くしね」

「そんなことですか。でしたら、私が出る必要もありませんね。ウェスト侯爵家が集めた情報をお渡ししますよ」

「くくく、君は何を勘違いしているのだい。ウェスト侯爵家のもつ情報を王家が知らないとでも? 私が知りたいのは、ドンファン伯爵家が、たくみに隠している『白き魔女』捏造の証拠だよ。それには、あの家の懐に入らねばならない」

「私に、何をしろと?」

 嫌な予感が、ひしひしと脳内を侵食し、落ち着かない。

「グレイスがドンファン伯爵家へ養女に入ってからの『白き魔女』としての『さきよみの力』はどうにも怪しい点が多いが、なかなか尻尾が掴めない。巧みにドンファン伯爵が証拠を隠している。本物の『白き魔女』であれば、王家は保護する必要がある。しかし、それを見定める事が出来ずにいるのが、実情だ。あの家に近づくには、ウェスト侯爵家のお前がグレイス嬢の婚約者にでもなれば簡単だろう。婚約者となれば、気が緩み正体を現すかもしれん」

 嫌な予感が的中したことを知り、苦々しい気持ちが込み上げる。

 為政者としては、正しい姿のかもしれないが、それに巻き込まれる身となれば、これほど厄介な人物はいない。

 ノア王太子の狡猾さに、反吐が出る。

 アイシャの恋心を疑っているわけではない。ただ、恋を自覚したばかりの彼女の心は、とても脆く、不安定だ。グレイスとの婚約が発表されれば、アイシャの心がどうなるかはわからない。

 裏切られたと思い、自暴自棄になり、キースの手をとってしまうかもしれない。

(ノア王太子との密約をアイシャに話しておけば……)

 そんな思いも、次に続いたノア王太子の言葉に、打ち砕かれてしまう。

「あぁ、そうそう。今回の密約に関して、アイシャに打ち明けるのはなしだ。自分が『白き魔女』だと、気づくきっかけになってしまうかもしれないからね」

 アイシャには、己が『白き魔女』だと知らずに生きてほしいと思っているリアムにとっても、彼女が『白き魔女』だと知るきっかけを作ることは避けたい。ただ、何も知らせずに、事を起こした場合の代償はあまりにも大きい。

(どうすれば、いいのだろうか……)

 リアムの心が揺れる。

「お前だってアイシャを害する可能性のあるグレイス嬢の存在は、無視出来ないと考えているのではないか? アイシャと一度離れても彼女の気持ちが変わらず、お前を愛し続けるのなら婚約を認めてやるよ。まぁ、その間にキースに持っていかれる可能性もあるがな。さて、このゲーム。リアムはアイシャとの未来のために、のるかな?」

 己の想いを受け入れ、結婚を承諾してくれたアイシャの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 アイシャとの未来のために……

「そのゲーム、受けて立ちますよ! アイシャとの未来を勝ち取るためにね」

 王太子執務室は、お互いを睨みつけ契約成立の握手を交わす美丈夫二人の、冷ややかなオーラに包まれていた。


< 154 / 281 >

この作品をシェア

pagetop