転生アラサー腐女子はモブですから!?
「ノア王太子殿下の治政は『白き魔女』を手に入れさえすれば本当に安泰と言えるのでしょうか? 貴方が政治目的のためアイシャを利用するというのなら、貴方の治政ではウェスト侯爵家は徹底的に対抗しますよ。もちろん、ナイトレイ侯爵家の次期当主であるキースも巻き込むつもりです」

「なんだと!?」

 ノア王太子の顔が歪み、眼孔するどく睨みつけられる。

 これこそが、王家の弱み。古き時代から、白き魔女の両翼として君臨したウェスト侯爵家とナイトレイ侯爵家の力は、時を経て、他の貴族家とは一線を画すものへとなっていた。王家といえども、手を組んだ二大侯爵家に対抗するのは容易なことではない。

 だからこそ、切り札になる。

「ナイトレイ侯爵家は『白き魔女』の片翼として、アイシャの望まぬ政略結婚を良しとはしないでしょう。しかもキースは、アイシャに忠誠を誓ったそうだ。愛する彼女が、無理矢理貴方と結婚させられると吹き込んだら、どうなるでしょうね? 貴方の治政はウェスト侯爵家とナイトレイ侯爵家を敵に回しても安泰と言えますか?」

 ノア王太子が難しい顔をして黙り込む。

「アイシャには、自身が『白き魔女』だなんて知らずに人生を歩んで欲しいと思っています。そんな(しがらみ)、彼女に背負って欲しくない。ノア王太子も知っているのではありませんか? 彼女の最大の魅力は、誰にも何にも囚われない生き方にあると。彼女の自由な発想と行動力は眩しいくらいに輝いて見える。柵ばかりの貴族社会の中にいても輝く、彼女の魅力を『白き魔女』という鎖で縛りたくはないのです」

「ふふ、ははは。確かに、昔からアイシャは規格外の令嬢だったよ。私からの誘いを、あの手この手で断り続けた令嬢はアイツくらいだ。アイシャの心の中には、結局リアムしかいないのか……」

 自嘲的な笑みを浮かべ、ボソッと言われた最後の言葉がリアムの頭の中で、ある違和感を生む。しかし、次に発せられた言葉に、そんな疑問も、どこかへと消え去った。

「私は、この婚約騒動から降りるよ。さすがに、二大侯爵家を敵に回したら、私の治世は終わりだ。『白き魔女』というネームバリューは魅力的だが、アイシャの嫌がる政略結婚は望んでいない」

 ノア王太子の言葉が本心かどうかなど、関係ない。『婚約者を降りる』と言う言葉を引き出せただけで充分だ。

「では、私とアイシャとの婚約を認めてくださると!」

「私はアイシャの婚約者候補を降りるとは言ったが、君とアイシャの婚約を認めるとは言っていないよ」

「えっ!? なんですって……」

「私にとっては、アイシャが君と結婚しようが、しまいが関係ない。別に、キースと結婚したっていい訳だしね。だから、アイシャのリアムへの愛が本物か、確かめさせてもらう。君が、私の要求を飲むのなら認めてあげないこともないよ」

 やはり、簡単には認めないか。

 このまま無条件に認めるとは思っていなかったが、目の前でクスクスと笑うノア王太子を見つめ、リアムの中で苛立ちが増していく。
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