転生アラサー腐女子はモブですから!?
「こちらの庭園の四阿にて、ノア王太子殿下がお待ちでございます」

 ここからは、薔薇の生け垣が邪魔をして四阿は見えない。しかし、侍従の案内に続き、生け垣の間の入り組んだ小道を進むと、突然目の前が開ける。

 薔薇のアーチを抜けた先、広場の真ん中には精緻な彫刻の像が置かれた噴水が見える。そして、その奥に鎮座するのは、蔦薔薇で覆われた支柱も美しい四阿。

 そこに座る一人の男性。

 優雅に脚を組み座り、お茶を飲みながら書類を読んでいる。陽の光を浴びて輝く黄金色の髪に隠れ、表情まではわからないが美しい薔薇園の雰囲気と合わさり、一枚の絵画を見ているかのような光景に、アイシャの口からため息がこぼれた。

(はぁ~、眼福♡ 遠くで観ている分には最高の造形美なのにねぇ。まさしく『ザ・王子様』よ)

「本当、外野でいたいわぁ……」

 そんなアイシャのため息混じりのつぶやきが聞こえたのか、『ザ・王子様』が顔をあげ、こちらへと視線を投げる。

「やぁ、アイシャ。久しぶりだね。……と、リンゼン侯爵家のアナベルだね。なぜ君がここにいるのかな?」

 出迎えたノア王太子が立ち上がりアイシャに話しかけた後、視線をずらし背後に佇むアナベルを鋭い視線で一瞥する。

「あっ、あの、申し訳ありません。わたくし、帰り――」

「ノア王太子殿下、ご無沙汰しております。わたくし、一人で王城に来るのは、どうも心許なく、お友達のアナベル様に無理を言って、ご一緒して頂きましたの。殿下からのお手紙には一人で来なさいとは書いてありませんでしたでしょ」

 ノア王太子を見つめ、『わたくし悪くありませんわぁ~』オーラを放つ。

(言ったモン勝ちよ‼︎)

「くくっ、そう来ますか。確かに、アイシャへ送った手紙には、一人で来いとは書かなかったね。今度、アイシャへ手紙を送る時は、事細かに指示を書く事にするよ。まさか女友達を連れてくるなんて想定外だった。本当、君はおもしろいね。まぁ、いい。二人とも座りなさい」

 ノア王太子の目の前の椅子を勧められ、アナベルと二人腰掛けると、三人でのお茶会が始まった。

「ところで、二人はいつからそんなに仲良くなったんだい? 確かアイシャの社交界デビューの夜会では敵対していたと思ったけど。確か、アナベル貴方がアイシャを叱責したとか何とか?」

「あの、それは……」

 アイシャの横に座るアナベルの顔色が、みるみると悪くなり俯いてしまう。

(もぉ~、なんて意地悪な質問をするのかしら!! 勝手にアナベル様を連れて来た私に対する嫌がらせね!)

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