転生アラサー腐女子はモブですから!?
 ルーナの言葉を聞いても消えない不安は、あの女のせいなのだろうか?

 グレイス・ドンファン伯爵令嬢。

 クレアの脳内に蘇った、前世の記憶をたどり、昔よく遊んだ乙女ゲームの内容を頭の中で巡らす。

 あの女が、乙女ゲーム『囚われの白き魔女は蜜夜に溺れる』のヒロインで間違いはない。『白き魔女』の噂が社交界で流れ始め、夜会でグレイスを見たときに確信した。

 ピンクブロンドの髪に、エメラルド色の瞳を持つ、あの女の可憐な容姿は、前世趣味でやっていた乙女ゲームのヒロインそのままだった。あの女が『白き魔女』であるなら両翼のナイトレイ侯爵家のキースとウェスト侯爵家のリアムは攻略対象者だ。もちろんノア王太子も。

 そして、あの物語の悪役は、わがまま放題のクレア王女と、ノア王太子に異常な執着を見せるアナベル・リンゼン侯爵令嬢だった。つまりは、あの物語に、アイシャ・リンベル伯爵令嬢の名前は出てこない。

 あのゲームの中のアイシャは、名前すらないモブか何かだったのだろうと、始めは思っていた。乙女ゲームで、モブ役の令嬢に名前がつかないことは、よくある。

 しかし、アイシャは『白き魔女』としての力を発現させた。ヒロインにしか現れないはずの『白き魔女』の力を。そして、もう一つ。あのゲームと同じように、ノア王太子とリアム、そしてキースにアイシャは求婚されている。

 あの乙女ゲームのヒロインと同じ立ち位置にいるアイシャ。その現状が何とも不気味で、不安を誘う。

 このまま何事もなくアイシャがリアムと結婚し、幸せを掴めるとは到底思えない。

 乙女ゲームのヒロインと同じく『白き魔女』と社交界で噂になっているグレイス・ドンファン伯爵令嬢が必ずアイシャの前に立ちはだかる。

 アイシャとリアムが結婚し、幸せをつかむ未来。あのゲームのリアムルートも、ハッピーエンドだった。

 もし、この世界の主役がアイシャであるのなら、リアムを選んだアイシャが迎えるラストはハッピーエンド。それなのに、心に巣くった不安が消えない。

(きっと、大丈夫よ。アイシャは、幸せになるはずよ。だって、あの乙女ゲームは、どのルートを選んでもハッピーエンドだったもの。バッドエンドなんて――――)
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