転生アラサー腐女子はモブですから!?
「まぁ、いいや。アイシャに感謝していると言ったのは、アナベルとのことだよ。実は昔から、アナベルの事が苦手でね、あの娘は父王の妹君が母親なんだよ。そんな関係もあって幼少期から王太子妃候補として王城によく来ていた。昔から聡明な人でね、初めて会った時、あの落ち着いた雰囲気に、当時の私は気圧されてしまったんだ」

 確かに、あの凛とした雰囲気は、冷たく硬質に感じる人もいるだろう。アナベルとの出会いが、夜会で叱責されるという珍事件から始まったアイシャにとっては、アナベルが冷たい人間だとは思わないが、見る人によっては、近寄りがたく感じるのかもしれない。

(アナベル様は、どちらかというと情熱的なタイプだと思うんだけどなぁ。まぁ、捉え方は人それぞれか)

「侯爵令嬢という立場上、感情を面に出すことが出来なかっただけではありませんか。私から見たアナベル様は、とても感情豊かな方かと思います」

「そうだね。アイシャに連れられお茶会に来た時に、私も認識を改めたよ。アナベルは、年相応の可愛らしい令嬢だった。確かに彼女の聡明さと努力を惜しまない姿勢は賞賛に値するほど素晴らしいものだ。しかし、久々に会った彼女は、型にハマった令嬢ではなくなっていた。自分の考えを持ち、私に対しても物怖じせず意見出来る、強い女性へと変わっていた。きっと、アイシャとの出会いが、彼女を変えたんだろうね」

 目の前のノア王太子は、優しそうな笑みを浮かべ、アナベルとの思い出を語っている。それが、あまりに幸せそうな笑みだったので、こちらの方がドギマギしてしまう。

(アナベル様とのことを、惚気られているのよねぇ……、明日、槍でも降らないといいけど)

 元々アナベルとノア王太子が結ばれれば良いと考えていたアイシャにとって、二人の仲が良いことは喜ばしいが、幸せそうに惚気るノア王太子の変貌ぶりに、若干引いてしまう。

「――――という訳で、私はアナベルと婚約することになると思うけど、アイシャはリアムとキース、どちらと婚約するつもりなの?」

「えっ!? 何も聞いておられませんか?」

「何が、かな?」

 ノア王太子が発した言葉の違和感に、アイシャの心がざわつく。

 リアムは、ノア王太子と話をつけたのではなかったのか。当人同士で話をつけた方が、上手くいくと言っていたが、ノア王太子の今の会話から推察するに、リアムと話し合った雰囲気はない。

(リアムと婚約する話が伝わっていない?)
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