転生アラサー腐女子はモブですから!?

決意【キース視点】

 いったい何が起ころうとしているのだ?

 エントランスでアイシャの乗った馬車を見送りながら、キースは一人考えていた。

 アイシャを誹謗中傷する社交界の噂も許せないが、何より許せないのはノア王太子とリアムが婚約者候補から降りたことだ。それだけではない。ノア王太子はリンゼン侯爵家のアナベル嬢と、そしてリアムはドンファン伯爵家のグレイス嬢と次々と婚約を発表した。

(王家もウェスト侯爵家も、アイシャが真の『白き魔女』だということは、分かっているはずだ。それなのに、別の貴族令嬢と婚約とは……、いったい何を考えている?)

 しかもグレイスは、『白き魔女』と言われ社交界では時の人だが、その噂も真実かどうか怪しい点が多い。そんな女との婚約に飛びつくほど、ウェスト侯爵家もバカではない。

 王家とウェスト侯爵家の間で、何かしらの密約が交わされたと考えるのが妥当か。または、ノア王太子とリアムとの間でか。どちらにしろ今回の婚約発表が、アイシャの評判を地に落としたのは、確かだ。

(アイシャが、俺の腕の中で泣いていた……)

 己の腕の中で震えながら、嗚咽を漏らすまいと耐えていたアイシャの姿を思い出す。

 一ヶ月もの間、家で療養していたのも、社交界での根も葉もない噂のせいだ。きっと一人、ずっと泣いていたのだろう。それでもナイトレイ侯爵家のことを思い、辛い気持ちを隠し、婚約解消を申し出たアイシャのことを思うと、胸が痛い。

 自分が一番辛い時でも、他者のことを思い行動できるアイシャは、優し過ぎる。それに引き換え、ノア王太子にしても、リアムにしても、なんて身勝手な男なのだ。王家もウェスト侯爵家も自分達の利益しか考えていない。そんな二家に振り回され、名誉を傷つけられたアイシャは、あまりに不憫だ。

(俺は絶対に、ノア王太子とリアムを許さない)

 あちらがアイシャをいらないと言ったのだ。だったら、これからはナイトレイ侯爵家が全力でアイシャを守る。彼女が、これ以上傷つかないように、ノア王太子からもリアムからも。もちろん、誰からも……

 そのためにも、『白き魔女』を名乗るグレイスの情報も集める必要がある。

 グレイスが『白き魔女』であろうと、なかろうと、そんなことは関係ない。ナイトレイ侯爵家は、『白き魔女』を守る片翼として、アイシャしか、真の『白き魔女』とは認めない。たとえ、王家とウェスト侯爵家が、グレイスを白き魔女と認めたとしてもだ。

 この先、グレイスが白き魔女を名乗る限り、アイシャの未来に影を落とす存在になることは確実だ。あの女が、アイシャの敵になった時、すぐに抹殺出来るように、出来るだけ多くの情報を集めておく必要がある。

 アイシャのためなら、ナイトレイ侯爵家直属の諜報・暗殺部隊を使うことを、父は許してくれるだろう。

(全てはアイシャのために……)

 アイシャが、ナイトレイ侯爵家を出発してから、すでに数十分。馬車が見えなくなった後も、その場に佇み、策を練っていたキースは、その場を後にし、自室にて父の帰りを待った。
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