転生アラサー腐女子はモブですから!?

波乱の社交界

『あれって、リンベル伯爵家のアイシャ様よねぇ。よく夜会に顔出せますわねぇ』

『恥ずかしくないのかしら』
 
『だってアバズレ女でしょ。きっと羞恥心がないのよ。あぁぁ、お可哀想に。キース様、あんな女に騙されて』

 夜会会場のそこかしこから聞こえてくる誹謗中傷に耳を塞ぎたくもなる。しかし、ここで萎縮しているわけにはいかない。アイシャは、前だけを見据え、なんとか耐える。

「アイシャ、大丈夫? 周りの声は気にしなくていいよ。陰でコソコソと悪口を言うしか能がない奴等など放っておけばいい」

 キースの腕に添えたアイシャの手が、安心させるかのように優しく握られる。その温かさに、冷え切った心がわずかに温かくなるような気がして、萎縮しそうになる心も軽くなる。

「ありがとうございます、キース様。そう言ってもらえて少し気が楽になりましたわ」

「そう、よかったよ。でも、無理はしないで。辛くなったら、すぐ言ってくれ」

「では、一つお願いを聞いてくれますか? ノア王太子殿下とアナベル様に挨拶をしたら、わたくし帰ってもよろしいですか? もちろんキース様は、この後も夜会を楽しんでくださいませ。わたくし、一人で帰れますから」

「それは許可出来ない相談だな。アイシャを一人で帰すなんて、するわけないだろう。もちろん俺が、リンベル伯爵家まで送り届けるよ。ノア王太子殿下へ挨拶が終わったら帰ろうと言いたいところだけど、一曲だけアイシャと踊りたいな。貴方がデビューした夜会で一緒に踊ったことが忘れられないんだ。お願いを聞いてくれたら、ダンス後、直ぐに帰ってあげる」

 アイシャを見つめウィンクをするキースを見て、アイシャも楽しくなる。

(キースって、こんなにお茶目だったのね)

 萎縮して身動きが取れなくなりそうなアイシャを気づかって紡がれる言葉の数々に癒される。このまま、挨拶だけして帰れば、アイシャは何も変われない。もしかしたら、本当に社交界に復帰出来なくなってしまうかもしれない。キースの言葉の裏に隠された優しさが、今のアイシャにはありがたかった。

「ふふふ……、キース様って意外と面白い方なのね。えぇ。一曲お相手致しますわ」

「良かった。貴方が笑ってくれて。アイシャとダンスを踊るためにも、さっさと挨拶を終わらせてしまおう」

 気合いを入れ直したアイシャは、キースにエスコートされ、ノア王太子とアナベルが待つ、上座へと歩みを進めた。
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