転生アラサー腐女子はモブですから!?
 ドンファン伯爵の養女になるまでは、皆が言うように、未来を見通す力があったのかもしれない。しかし、それは、ただ乙女ゲームの知識通りに動いていただけ。グレイスに予知能力があるわけでは無いのだ。

 社交界で言われているグレイスの『さきよみの力』は、ドンファン伯爵の親しい貴族家にのみ行われている。それは、裏でドンファン伯爵の手下共が、予知した通りの行動を起こしやすくするためだ。つまりは、『さきよみの力』があるかのようにグレイスに予知をさせ、ドンファン伯爵が裏工作をしているだけのこと。

 領地で橋が落ちると予知すれば、その通りに橋を爆破し、賭博で大損すると予知すれば、その通りに暗躍するだけだ。グレイスが行う予知は、個人的に暗躍出来る小さなものばかりだが、実際に予知が当たった人間の衝撃は大きく、噂はあっという間に尾鰭がつき、社交界に広がった。
 
 今や『白き魔女』を養女に迎えたドンファン伯爵の地位はうなぎ上りだ。白き魔女としてもてはやされるグレイスの『さきよみの力』が嘘だとしても、広がった噂はいつしか確信に変わり、疑う者など誰もいない。だからこそ、ウェスト侯爵家のリアムとの婚約もスムーズに進んだのだ。

 前世やっていた乙女ゲームのヒロイン、グレイスにも『さきよみの力』なるものは、なかった。ただ莫大な魔力量を有していただけだ。敵を倒したいと強く願えば攻撃魔法が発動され、守りたいと思えば防御魔法が発動する。そして、誰かを助けたいと強く願えば治癒魔法が発動するという万能型魔法の使い手だった。しかし、その魔法の源となる力すら、グレイスは未だに感じることが出来ない。

(私は、ヒロインと同じ名前だけど、『白き魔女』の力は持っていない)

 他にも、乙女ゲームと違う点が数多くある。

 アイシャの存在もだが、今回王城で発表されたノア王太子とアナベルとの婚約発表も、その一つだ。確かに乙女ゲームの中にも、このイベントはある。しかし、本来であれば悪役令嬢アナベルを嫌っているノア王太子が甘い顔でアナベルを見つめるはずがないのだ。

(私が知る乙女ゲームの世界とは僅かに違う世界。でもそんなの関係ないわ)

 白き魔女として認められた今、この世界のヒロインは私で間違いない。

 誰にも私の野望を邪魔させない。

 リアムを手に入れた。次はキースだ。
 そしてゆくゆくは、ノア王太子を手に入れてみせる。

『アイシャ・リンベル』

 忌々しい女だこと……
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