転生アラサー腐女子はモブですから!?

迂闊な行動

「はぁぁ……」

 アイシャは、行きつけのカフェで紅茶を頼み、窓際のお気に入りの席に座り、ボンヤリと外を眺めていた。

 ノア王太子の婚約を祝う夜会以降、アイシャは引き籠り生活に戻っていた。出席しなければならない夜会もなく、病気療養中と言う名目で、茶会や夜会のお誘いは全て断っていた。

 王城で開かれた夜会以降、キースに抱き上げられ会場を後にしたアイシャの噂は、良い意味でも悪い意味でも社交界では、ホットな話題として囁かれている。

 あの夜、アイシャを守るように周りの貴族を威圧していたキースの態度と、周りの目も気にせずアイシャを大事そうに抱きかかえ立ち去った姿に、キースは婚約者を守るナイトとしての振る舞いを、多くの貴族から賞賛された。

 それだけではない。アイシャとの関係を問われた時、キースは堂々と愛する女性と言い切った。そんなキースの態度から、彼とアイシャは婚約者同士と言うことになっている。両家のどちらからも正式な婚約成立の文書が発表されているわけではないのにだ。

(リアムのことなんて忘れて、キースと結婚した方が幸せになれるのかしらね……)

 アイシャは、一つため息をこぼし、目の前に置かれたケーキを口に放り込む。『大好きなケーキですら、美味しく感じないのね』とボーッと考えながら、王城で開かれた夜会での一幕を思い出す。バルコニーから見たリアムと婚約者だと思われるグレイス・ドンファン伯爵令嬢とのキスシーンが脳裏をかすめ、胸がジクジクと痛み出す。

 リアムと他の女性とのキスシーンに、あんなに動揺するとは思わなかった。それだけリアムがアイシャにとって特別な存在になっていたのだろう。

(リアムを好きでいたって、どうする事も出来ないのにね)

 そんな自嘲的なことを思いつつ、もう一口、アイシャはケーキを口に放り込む。
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