転生アラサー腐女子はモブですから!?
 七歳の披露目の誕生日パーティーを血に染めるわけにはいかない。これ以上、妄想をはかどらせたら鼻血を噴き出す。

 七年間の抑圧された『萌え』なし生活から解き放たれ、アイシャの脳内妄想は爆発寸前だった。

(本当、嫌になっちゃう。どうしてこの世界の女児は七歳の披露目の誕生日を迎えないと外出も出来ないのよ!)

 エイデン王国の貴族の慣習とはいえ、『これでは趣味を満喫出来ないでしょうが!』と、アイシャは心の中で怒りを爆発させる。

(妄想し放題の煌びやかな世界に生まれたって言うのに! 趣味を満喫出来ない日々なんて……、不毛よ、不毛すぎる)

 華やかな燕尾服を身にまとい歓談する美形ぞろいの紳士を眺めながら、アイシャは大きなため息をはく。

「あら? どうしたのアイシャ、ため息なんてついて」

「あっ、お母さま。なんでもございませんのよ。ホホホ……」

「そうかしら? 一点を見つめて動かないんですもの、本当に大丈夫?」

「リンベル伯爵夫人、アイシャちゃんも、たくさんの方に挨拶をして疲れているのよ」

 気遣わしげにこちらを見やる夫人は、母ルイーザと懇意にしているどこぞの侯爵夫人だ。

「先ほどの挨拶も、大勢の大人を前にアイシャちゃんも緊張しましたでしょうしね」

「それにしても、先ほどのアイシャちゃんの披露目の挨拶、とても素晴らしいものでしたわ。思わず感嘆の声をもらしてしまうほどでしたわ」

 侯爵夫人の言葉を受け、母の隣に座るどこぞの伯爵夫人もまた、優しい笑みを浮かべ、アイシャを褒める。

 アイシャと母ルイーザを囲む夫人方の輪。その輪に加わる面子(メンツ)を眺め思う。なぜ、たかが伯爵家の娘の披露目の会に、これだけ豪華な貴族家のご婦人が集まるのかと。しかも、高位貴族家のご夫人方だけではない。少し、視線を周囲へと移せば、貴族家の当主まで参加している。

 右を見ても、左を見ても、リンベル伯爵家より格上の名家の当主夫妻がそろい踏みだ。

 公爵家に、侯爵家……、子供の付き添いとはいえ、たかが伯爵家の娘の披露目の誕生会に参加するメンツではない。

(ほんと不思議。お父さまの交友関係どうなっているのかしら?)

 以前から不思議には感じていたのだ。我が家へと訪れる客人の顔ぶれの豪華さに。父ルイは、王城で執務官をしているが、さほど高い地位にいるわけではない。母ルイーザはというと、おっとりとした可愛らしい婦人だが……、そういえば、よく色々な貴族家からお茶会に誘われている。ただ、それだけで格下の伯爵家に格上の名家が頻繁に訪れる理由にはならない。

(そうなると、やはりあの噂の信憑性が高いかしらね)

 
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