転生アラサー腐女子はモブですから!?

包囲網

「ほら、怖がらないで。バランスを崩しても俺が支えるから大丈夫だ。足を踏み出して」

 昼食の席でも、キースに甲斐甲斐しくお世話をされたアイシャは、悶絶するほどの羞恥地獄を味わいながら、なんとか食事を終えた。しかし、彼女の羞恥地獄はまだ終わっていなかった。

 専属侍女に予告されていた通り、歩行練習をキースと二人することになったアイシャは、問答無用でキースに抱き上げられ、隣の部屋へと連れて来られた。始めは抵抗していたアイシャだったが、続き扉から隣室へと入った瞬間、その内装の素晴らしさに、お姫さま抱っこなる恥ずかしい状況であることも、頭の中から吹き飛んだ。

 隣室には、アンティーク調のソファと可愛らしい猫脚のテーブルセットが配置され、壁際に置かれたガラス製のキャビネットの中には、可愛らしいドールハウスが飾られている。

 部屋に飾られた風景画にしても、壁際のテーブルの上に置かれている色鮮やかな花々が生けられた花瓶にしても、ここで長い時間を過ごすことになる女性が退屈しないように、配慮され飾られていると分かる。滞在する人のことを考えて設られた内装に、アイシャは感心しきりだった。

 キースに手を引かれての歩行練習は、部屋の中をじっくりと観察出来る時間でもあり、思いの外、とても楽しい歩行練習となった。

「そろそろ休憩にしようか」

 アイシャをソファに座らせたキースが、すかさず隣へと座り、呼び鈴を鳴らす。直ぐに、ワゴンを押し入って来た侍女達が、目の前のテーブルにお茶やお菓子を手際よくセットし、あっと言う間に立ち去る。侍女達の見事な連携プレイに、アイシャは、キースと手を繋ぎ密着して座っているという恥ずかしい状況であることも忘れ、彼女達の動きに見入っていた。

 扉から退出する専属侍女にウィンクされ、やっと今の恥ずかしい状況を思い出したアイシャが、顔を真っ赤にして俯いたのは、言うまでもない。
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