転生アラサー腐女子はモブですから!?
 メイド総出で、身体の隅々までピカピカに洗われたアイシャは、私室にてアマンダに髪を丁寧にすいてもらっていた。花の香りを放つ香油を塗られ、丁寧にすかれた髪は陽の光を浴び美しく輝く。甘く、爽やかな香りを鼻腔いっぱいに吸い込めば、モヤモヤとした気持ちも何だかスッキリしたように感じる。

「アイシャ様、少しスッキリされましたか? 最近、ずっと眉間にシワ寄せて、ため息ばかりついておられて、心配しておりましたの。ここ一ヶ月準備でお忙しくされていましたし、疲れが出たのかもしれませんね」

「確かに、忙しかったわね。頻繁にナイトレイ侯爵家へも通っていたから、正直しんどかったわ。お母様直伝の鬼の花嫁修行もあったしね。本当、わたくし、よく耐えたわよ」

「そうですねぇ。奥様の怒声が響かない日はございませんでしたもの。そんな日々も終わりかと思うと、何だか寂しいです」

 ちょっぴり瞳に涙を浮かべたアマンダを励ますように言う。

「なに言っているの! 明日、婚約披露パーティーだけど、結婚はまだまだ先よ。これからもよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

 婚約しても結婚はまだまだ先なのだ。

 まだまだ先、気楽に行こう……

「アイシャ様、準備が終わりましたので、わたくしはこれで失礼致します。奥様より伝言がありまして、温室でお待ちとのことです」

「わかったわ」

 アマンダの言葉に気を引きしめる。婚約発表を明日に控え、最後の喝が入るのだろう。なんだかんだ言って、母には感謝しているのだ。右も左もわからない、ガサツなアイシャを、立派な淑女に育て上げるのは、困難の連続だっただろう。母がいなければ、明日の婚約披露パーティーで、確実に恥をかいていた。侯爵家に嫁入りする娘として相応しくないと、烙印を押される事態になっていただろう。

(さてと……、こんな情けない顔をしていたら、お母さまに怒られるわね)

 アイシャはもう一度気合を入れ直すと、母の待つ温室へと向かった。

< 259 / 281 >

この作品をシェア

pagetop