転生アラサー腐女子はモブですから!?
「ノア、先ほどは逃げましたわね?」

「ははは、ご冗談を。女性同士のお茶の席に、男は無粋でしょう。だから辞去させてもらっただけですよ」

「まぁ、そういう事にしといてあげましょう」

 王妃の間を訪ねたノアは、勧められるまま母の対面のソファ席へと座り、さっそく本題を切り出した。

「ところでクレアはどうしてしまったのですか? 昨日まではアイシャ嬢を散々罵っていたと思いましたが。お茶会で何かありましたか?」

「やっぱり、それが聞きたくてわざわざ来たのね。ノアも悪い子ね、クレアもアイシャも、貴方の遊び道具じゃなくってよ」

「何をおしゃっているのですか、母上。遊び道具だなんて、それこそ二人に失礼ですよ」

「よく言うわよ。お茶会で一悶着あるのは予想していたでしょ。それを全部、母に押しつけて、自分は高みの見物だなんて……、ふふ、ふふふ、でも面白いものを見せてもらったから、不問に処すわ。実わね――――」

 そしてノアは、お茶会でのアイシャ嬢とクレアのやり合いを驚愕の面持ちで聞く事となった。

 お茶が不味いとメイドに当たり散らしたクレアの頭からアイシャがお茶をかけ、怒り狂ったクレアに平手打ちをかまし、説教したとは。

「また随分と思い切った事をしましたねアイシャ嬢は。紅茶をかけ、平手打ちとは……」

「先に手を出したのはクレアよ。頬を叩かれたアイシャは一切文句も感情に任せ、やり返す事もしなかった。あの娘が感情を表に出したのはクレアがメイドに紅茶の入ったカップを叩きつけた時だけよ」

「ほぉぉ、それはまた」

「下位の者に対する上位の者が振る舞う行動の責任の重さを説くアイシャは、まさしく王者の風格。たった七歳の子が、最も大切な王族としての心構えを理解し、クレアに訥々(とつとつ)と説く姿は、信じられない光景だったわ。あの娘は大きく化けるわよ。末恐ろしい少女よ……」

 母が獲物を見つけたハンターのように不敵に笑う。

「母上は随分アイシャを気に入ったようですね」

「そういうノアはアイシャの事をどう思っているのかしら?」

「母上の話を聞き、益々興味が湧いたとだけ、言っておきます」

「そう……、でも深入りはダメよ。あの子が、十八歳になるまでは」

「わかっていますよ。(いにしえ)の契約ですか」

「えぇ。あれが、ある限りアイシャが十八歳となり成人を迎えるまで、誰もあの子と婚約を結ぶことは出来ない。口惜しいことだわ」

「そうですね……」

 あんな『お伽話』さっさと廃れて無くなれば良いのにと願うノアの心の内が、明かされることはない。
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