転生アラサー腐女子はモブですから!?
「やっぱり、なんか変?」

 数週間後、クレア王女に友達認定されたアイシャは王城へと来ていた。

 門扉の前で待っていたいつもの侍従に、なぜかキラキラした目を向けられ、(いぶか)しみながらも彼の後に続きクレア王女の私室へと向かう。

 三回目の王城訪問で、こうも侍従の態度が変わると別人なのではと疑いたくもなる。

(本当、何があったのかしら? 明らかに好意的よね)

 前を歩く侍従の背を見つめ、アイシャの頭の中を疑問符がクルクルと回る。

 それに違和感は侍従だけではない。廊下で出会う使用人の面々が、初日に比べ増えているような気がする。もちろん邪魔なわけではない。影の如く端に控え頭を下げる彼らは、注意して周りを見ていなければ気づかないくらい、空気と化している。
 
 たまに目が合い慌てて頭を下げる使用人の皆さまの顔が、心なしか赤く見えるのは気のせいだろうか。

(クレア王女の友達が、まさかの伯爵令嬢で興味津々なんでしょうけど。まぁ、王城に上がれるような高位貴族の令嬢でもないし物珍しいんでしょうね)

 アイシャは勘違いをしていた。熱い目を向ける使用人達の胸の内を……

 クレア王女に紅茶をぶっ掛け、平手打ちをかましたアイシャの噂は、あっという間に王城で働く侍従や侍女の間に知れ渡った。王女の理不尽な仕打ちに耐え切れなくなった侍女や、辟易(へきえき)しながらも家庭の事情で辞められない者達にとってアイシャは、巨大な敵に立ち向かった勇者そのものだったのだ。

 まだ幼い女児のはずなのに、妙な迫力をまとい、クレア王女に平手打ちをかまし、放心状態の王女を訥々(とつとつ)と諭すアイシャの姿は、周りで状況を見守っていた侍女達の心をガッチリとつかんでいた。

 その結果、アイシャに惚れてしまう者まで現れる事態を引き起こした。

 人が変わったように態度を改め、下々の者にも横柄な態度を取る事なく、思慮深く接するクレア王女の存在もアイシャの噂を助長する結果につながった。

 アイシャは、侍従、侍女の希望の星、『英雄』として祭り上げられていた。

 そんな事態になっているとは思いもしないアイシャは、訝しみながらも進み、クレア王女の私室へと着いた。

「えっと、ここ、本当にクレア王女殿下の私室でございますか?」

「左様でございます」

 クレア王女の部屋に入ったアイシャは、室内の変貌ぶりに絶句していた。

 ファンシーだった部屋が、落ち着いた焦げ茶色の家具で統一され、ピンク色の壁はクリーム色に塗り替えられている。しかも、あのブリブリ花柄カーテンがなくなり、シンプルな小花柄のカーテンになっている。

 目がチカチカするほど、ドギツかった部屋が、センスの良い落ち着いた雰囲気の部屋へと変貌している。この部屋にクレア王女が居なければ、部屋を間違えたと本気で思うだろう。

「クレア王女殿下、心境の変化ですか? あまりに印象が違うような」

 アイシャは室内を見回し、品の良いソファへ座っていたクレア王女に、思わず聞いてしまった。

「そうねぇ、前の部屋は私の趣味に合わないのよ。あんなファンシーな部屋。ロリータじゃないって言うのよ!」

「えっ!? ロリータ?」

(この世界にロリータなんて言葉、あったかしら?)

「あっ――、な、何でもないのよ! それよりもアイシャ、私のことは呼び捨てでいいわ! クレアって呼んでちょうだい」

「いえいえいえ、呼び捨てなんて畏れ多いです。せめてクレア様と」

「仕方ないわねぇ。それで手を打ちましょう」

 なんだか誤魔化された気もするが、下手にむし返して呼び捨てを強要されるのも困る。

(――――まっ、いっか!)

 楽観的なアイシャは、深く考える事をやめた。

「それじゃあ、呼び方も決まったことだし、行きましょ。アイシャと素敵な場所でお茶をしようと思っていたの!」

 アイシャはクレア王女に手を引かれ部屋を出る。

 そして、連れて行かれた場所で見た素晴らしき光景に、早くも逃げ出したくなったアイシャは、己の腕をガッチリつかむクレア王女に、本気で殺意を覚えた。

(うっわぁ~イケメンパラダイスだぁ……(現実逃避))
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