転生アラサー腐女子はモブですから!?
「おーい。寝てても強くなれないぞぉ。俺はすぐ辞めてもいいんだけど」
「リアムさま……、まだまだよ」
キースに敗北を期してから数週間後、師匠の許可も得られたアイシャは、リアムとの稽古を開始した。しかし、リアムから受ける実践稽古は、アイシャの想像を優に超えるほど過酷なものだった。
(アイツは鬼よ。鬼……)
自分の不甲斐なさに歯を食いしばり、立ち上がる。
いかに、師匠が手加減して教えてくれていたかがわかる。足や腕を模擬刀で打たれる度、痛みが走り顔を歪ませる。そして、地面に転がされ、ぶつかった肩や背中が痛みを訴える。
笑いながら繰り出される緩急をつけた剣技は、はっきり言って容赦がない。しかし、手加減されているとわかっているから、なおさら悔しい。
「まだまだ、これからよ」
フラフラする足を叱咤し、走り出したアイシャは、リアムに向かい剣を振り下ろす。
『ガッ! ドンっ』
片手でアイシャの剣を受け止めたリアムに押され、吹っ飛ばされる。荒い息を吐き、仰向けに倒れ込んだアイシャは、もはや剣を握る力も残っていなかった。
「アイシャ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよぉ」
起き上がることも出来なくなったアイシャをリアムが抱き上げ、芝生の上へと彼女を寝かせる。
(もう、一歩も動けないわぁ)
「なぁ。アイシャは何で辛い思いまでして剣を習っているんだ? 伯爵令嬢なら、別に剣を習わなくたって護衛を雇えるだろう?」
(まぁ、確かに伯爵令嬢が剣を習う必要は、全くないわよねぇ。騎士団の練習を見ながら、妄想パラダイスに浸りたかったなんて言ったら完全に変人扱いだろうしね)
「確かに伯爵令嬢は剣を習う必要なんてないわよね。強いて言うなら将来の自分の為かしらねぇ~、たぶん未来の私は、自分の身は自分で守れるように、強くならなくてはいけなくなるから」
「はぁ~? それこそ必要ないだろう。リンベル伯爵家から嫁ぐ貴族家の候補は、高位貴族ばかりだろう。平民にでもならない限り、嫌でも護衛がつくぞ」
「だって、結婚するつもりないもの」
「お前、なに言ってんだ!? 貴族令嬢が結婚せずに、どう生きて行くつもりなんだよ?」
「それこそ偏見じゃないかしら。貴族令嬢は結婚して当たり前って言う考えが古いんじゃないの。私は自分の夢や趣味を捨ててまで、意思にそぐわぬ結婚をするのは絶対に嫌なのよ。そのために今から出来る事はやるの」
「それ、本気なのか?」
「もちろん本気よ。将来の自分に必要だと思えば剣だって握るし、勉強だって疎かにしないわ。リアム様だって自分の夢のためなら何だって頑張れるでしょ?」
「アイシャみたいに考えられる奴の方が少ないよ。誰しもが何かしらの柵に囚われているものだよ。その柵に囚われ夢を捨てる者が多いのが現実だ」
「リアム様は悲しいことを言うのね。確かに誰しも、柵に囚われているものよね。私だって伯爵令嬢っていう柵に囚われているわ。でもね、だからって夢まで捨てる必要はないと思うの」
前世の私は二十九年という短い生だったけど、趣味に仕事に、自分のやりたい事はやって来たつもりだ。
幸せだったかと言われれば、胸を張って幸せだったと言える。
確かに貴族社会は、想像する以上にたくさんの柵に支配されて回っている。しかし、そんな些末なことに囚われ生きるなんて、つまらい。
「ねぇ、リアム様。私達、まだ子供よ。これからの人生が、どうなるかなんてわからない。今、夢を捨てたら、きっと後悔する。大人になって夢と現実は違うんだって思い知らされるまで、足掻いてみたいのよ。夢に向かって足掻けば、将来、何かが変わるかもしれないじゃない!」
今世も自分の趣味に生きると決めたのだ。前世のように人生いつ何が起こるかもわからない。
だからこそ悔いのないよう、心のままに生きたい。
「夢に向かって足掻けば何かが変わるかもしれない、か。俺も変われるのだろうか……」
「――――えっ? 何か言った?」
「いいや、何でもない。がんばっているアイシャに、ひとつアドバイスをやろう。お前の持っている剣、こっちにしてみな。これは、護身用に使う短剣なんだけど、長剣より軽くて扱いやすい」
手渡された短剣を持ち、軽く振ってみる。
「確かに、軽いわね」
「だろぉ。女性は小さくて身軽だから男の懐に飛び込めば短剣でも致命傷を与えられる。護身術を身につけるならこっちの方が向いている。姑息な手段を繰り出すのにも、な。やるよ! 刃を潰せば練習用になる」
爽やかな笑顔でアイシャを見つめるリアムに、頬が熱くなる。
(そんな笑顔も出来るなんて、ずるいわよ)
アイシャは赤くなった頬を隠すように、リアムにもらった短剣を胸に抱き、うつむいた。
「リアムさま……、まだまだよ」
キースに敗北を期してから数週間後、師匠の許可も得られたアイシャは、リアムとの稽古を開始した。しかし、リアムから受ける実践稽古は、アイシャの想像を優に超えるほど過酷なものだった。
(アイツは鬼よ。鬼……)
自分の不甲斐なさに歯を食いしばり、立ち上がる。
いかに、師匠が手加減して教えてくれていたかがわかる。足や腕を模擬刀で打たれる度、痛みが走り顔を歪ませる。そして、地面に転がされ、ぶつかった肩や背中が痛みを訴える。
笑いながら繰り出される緩急をつけた剣技は、はっきり言って容赦がない。しかし、手加減されているとわかっているから、なおさら悔しい。
「まだまだ、これからよ」
フラフラする足を叱咤し、走り出したアイシャは、リアムに向かい剣を振り下ろす。
『ガッ! ドンっ』
片手でアイシャの剣を受け止めたリアムに押され、吹っ飛ばされる。荒い息を吐き、仰向けに倒れ込んだアイシャは、もはや剣を握る力も残っていなかった。
「アイシャ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよぉ」
起き上がることも出来なくなったアイシャをリアムが抱き上げ、芝生の上へと彼女を寝かせる。
(もう、一歩も動けないわぁ)
「なぁ。アイシャは何で辛い思いまでして剣を習っているんだ? 伯爵令嬢なら、別に剣を習わなくたって護衛を雇えるだろう?」
(まぁ、確かに伯爵令嬢が剣を習う必要は、全くないわよねぇ。騎士団の練習を見ながら、妄想パラダイスに浸りたかったなんて言ったら完全に変人扱いだろうしね)
「確かに伯爵令嬢は剣を習う必要なんてないわよね。強いて言うなら将来の自分の為かしらねぇ~、たぶん未来の私は、自分の身は自分で守れるように、強くならなくてはいけなくなるから」
「はぁ~? それこそ必要ないだろう。リンベル伯爵家から嫁ぐ貴族家の候補は、高位貴族ばかりだろう。平民にでもならない限り、嫌でも護衛がつくぞ」
「だって、結婚するつもりないもの」
「お前、なに言ってんだ!? 貴族令嬢が結婚せずに、どう生きて行くつもりなんだよ?」
「それこそ偏見じゃないかしら。貴族令嬢は結婚して当たり前って言う考えが古いんじゃないの。私は自分の夢や趣味を捨ててまで、意思にそぐわぬ結婚をするのは絶対に嫌なのよ。そのために今から出来る事はやるの」
「それ、本気なのか?」
「もちろん本気よ。将来の自分に必要だと思えば剣だって握るし、勉強だって疎かにしないわ。リアム様だって自分の夢のためなら何だって頑張れるでしょ?」
「アイシャみたいに考えられる奴の方が少ないよ。誰しもが何かしらの柵に囚われているものだよ。その柵に囚われ夢を捨てる者が多いのが現実だ」
「リアム様は悲しいことを言うのね。確かに誰しも、柵に囚われているものよね。私だって伯爵令嬢っていう柵に囚われているわ。でもね、だからって夢まで捨てる必要はないと思うの」
前世の私は二十九年という短い生だったけど、趣味に仕事に、自分のやりたい事はやって来たつもりだ。
幸せだったかと言われれば、胸を張って幸せだったと言える。
確かに貴族社会は、想像する以上にたくさんの柵に支配されて回っている。しかし、そんな些末なことに囚われ生きるなんて、つまらい。
「ねぇ、リアム様。私達、まだ子供よ。これからの人生が、どうなるかなんてわからない。今、夢を捨てたら、きっと後悔する。大人になって夢と現実は違うんだって思い知らされるまで、足掻いてみたいのよ。夢に向かって足掻けば、将来、何かが変わるかもしれないじゃない!」
今世も自分の趣味に生きると決めたのだ。前世のように人生いつ何が起こるかもわからない。
だからこそ悔いのないよう、心のままに生きたい。
「夢に向かって足掻けば何かが変わるかもしれない、か。俺も変われるのだろうか……」
「――――えっ? 何か言った?」
「いいや、何でもない。がんばっているアイシャに、ひとつアドバイスをやろう。お前の持っている剣、こっちにしてみな。これは、護身用に使う短剣なんだけど、長剣より軽くて扱いやすい」
手渡された短剣を持ち、軽く振ってみる。
「確かに、軽いわね」
「だろぉ。女性は小さくて身軽だから男の懐に飛び込めば短剣でも致命傷を与えられる。護身術を身につけるならこっちの方が向いている。姑息な手段を繰り出すのにも、な。やるよ! 刃を潰せば練習用になる」
爽やかな笑顔でアイシャを見つめるリアムに、頬が熱くなる。
(そんな笑顔も出来るなんて、ずるいわよ)
アイシャは赤くなった頬を隠すように、リアムにもらった短剣を胸に抱き、うつむいた。