転生アラサー腐女子はモブですから!?
 過去、白き魔女を酷使してきた王家に対する罰。それこそ、白き魔女の伴侶となる権利の放棄。

 四家により『古の契約』を交わした時、最後の魔女から告げられた誓約の一つ。『魔女』を搾取し続けてきた王家への牽制。この誓約を承諾しなければ、王家は魔女の呪いを受け滅びると、最後の魔女は予言した。

 さきよみの力を有していた最後の魔女の言葉は絶大で、王家は渋々、その誓約書に判を押したという。

 その誓約があったからこそ、アイシャが十八歳になるその日まで、心に秘めた想いを封印すると決めた。そして、なんの因果か、アイシャは『白き魔女』として復活し、決して手の届かない存在へと変わってしまったと絶望したというのに。

(父は、私に何を言おうとしている?)

「確かに、その権利はないな。今のままでは――、と注釈をつけておこうか」

「それは、いったい?」

 消したはずの淡い想いが噴き出しそうで、落ち着かない。

「あの『古の契約』には、一つ例外が存在する。確かに、白き魔女の伴侶は、ウェスト侯爵家かナイトレイ侯爵家、どちらかから選ぶと記載されている。しかしな、それは王家を牽制するための文言に過ぎんのだよ」

「つまりは……」

「白き魔女の意志は、全ての誓約よりも優先される。つまりは、白き魔女が、自らの意志で、お前を伴侶と決めれば、王家は白き魔女を娶ることが出来る。そのために、今までお前の婚約者を決めずに来たのだ。言っていることはわかるな?」

「えぇ、もちろん。アイシャを手に入れろと言うことですね」

 鷹揚にうなづいた父を見つめ、喜びが心の中を荒れ狂う。

「そこでだ。その手紙に書いてある通り、現状、一番有利な立ち位置にいるのはウェスト侯爵家のリアムだ。このまま手を打たねば、ウェスト侯爵家にアイシャを奪われるのは必然だろう」

 アイシャと出会ってから十年。頻繁に王城へと来ていた彼女とリアムの関係は知っていた。私の前では絶対に見せない柔らかな笑みをリアムに見せるアイシャを何度も見かけた。その度に、心に湧き起こった醜い感情。それは、リアムに対する嫉妬心だった。

 アイシャへの想いを封印し、距離を置かねばならない自分とは反対に、アイシャとの距離を縮めていくリアムを見るたびに、己の立場を呪った。

 それも、今日で終わる。

「ウェスト侯爵家が抜け駆け出来ぬように、一時的にナイトレイ侯爵家と手を組むと?」

「あぁ、アイシャが社交デビューするまでの一年間。リアムとアイシャが接触出来ぬように手をうつ。ウェスト侯爵家も、王家とナイトレイ侯爵家からの圧力には、逆らえまい」

「くくく、そうですね。一年後の社交界デビューが勝負ということですか」

 苦しめばいい。

 アイシャに接触できない苦しみをリアムも味わうことになると考えるだけで、ノアの心は仄暗い喜びに満たされる。

「――――しかし、懸念事項もある。あの伝承よ」

「『白き魔女の恩恵を受けし伴侶は、世界の覇者となる』という、あの伝承ですか?」

「あぁ、あの伝承は上手く利用すれば、お前の治世を盤石なものにする駒にもなるだろう。しかし、アイシャの婚約者が決まっていない段階で、白き魔女が復活したと社交界に知れ渡れば、厄介なことになる」

「良からぬ事を考える者も出てくるというわけですね」

「そうだ、早急に手を打たねばならんな。そして、もう一つ。貧しい農村で奇跡を起こしたという、もう一人の『白き魔女』の存在よ」
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