転生アラサー腐女子はモブですから!?
「グレイスとかいう名の娘の噂ですか?」

「あぁ、『さきよみの力』を使い、近しい未来に起こる天災や事件を言い当てたとか」

「それは真実なのでしょうか? 白き魔女はリンベル伯爵家より復活するはず。その娘は、伯爵家の遠縁の者なのですか?」

「いや、違う。ただ、その娘に『さきよみの力』が本当にあるのだとすれば、白き魔女の可能性は高い。王城で保護せねばならんが……」

「おそれながら陛下。発言をお許し願います」

 父の背後で静かに事の成り行きを見守っていた侍従が口を開く。

「よい、許可する」

「例の娘ですが、すでに噂を聞きつけたドンファン伯爵が連れ去り、養女として迎えたと報告が上がっております」

「なに!? ドンファン伯爵だと! それはまた、厄介な。その白き魔女の噂も怪しいものだ。ドンファン伯爵家の動向も随時伝えよ」

「御意」

 礼をし、音もなく消えた侍従を見て、改めて王直轄の暗部の優秀さを思い知る。

 それにしても黒い噂の絶えないドンファン伯爵家に『白き魔女』が養女として入るとは……、一波乱あるな。

 果たして、本物の『白き魔女』はどちらなのか?

(ふっ……、そんな事、どうだっていい)

 白き魔女の真偽など、どうでもいい。アイシャさえ手に入ればそれでいい。

 未だに心の中に燻り続ける仄暗い感情を胸に父の私室を辞去したノアの楽しげな笑いが、誰もいない王城の廊下に響いていた。


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