転生アラサー腐女子はモブですから!?
 デビュタントの一人が婚約者のいない王太子とファーストダンスを踊るのは恒例行事。一曲踊ってその足で壁の花になれば生き長らえるはず。今ならまだ間に合う。

 新たな決意を胸にダンスを踊りながら、逃走経路を探すのに必死だったアイシャは、ノア王太子の言葉を聞いていなかった。

「アイシャ、君ももう大人の仲間入りだ。私の言いたい事はわかるだろう?」

「――――えっ??」
「想像以上にアイシャは鈍感なようだね。好きでもない相手を何度も誘う男なんていないのだよ。しかも相手は全く自分の気持ちに気づいてくれないお子さまときた。どうやらアイシャには直球でいかないとダメなようだね」

 ノア王太子は何を言っているの?

「アイシャ、私はね。君のことを愛しているんだよ。わかったかな。鈍感なお姫さま」

 はっ?

 曲が終わりを告げ、儀礼にのっとりアイシャはノア王太子へとカーテシーをとり立ち去ろうとして、手を掴まれていた。

 ゆっくりと二曲目のワルツが流れ出し、会場内に大きな響めきがはしる。

 ノア王太子自らの意志で立ち去ろうとしたデビュタントの手を掴み引き寄せたのだ。社交界では、ダンスを二曲続けて踊ることは、婚約者かパートナー以外では有り得ない。

 一曲目は社交辞令。二曲目は求愛のダンス。

 婚約者のいない王太子が同じ令嬢と二回ダンスを踊るという事は、その令嬢に求愛をしているとみなされる。

 周りの響めきを覆うように二曲目のワルツが進んでいく。放心状態でなされるがままのアイシャと優しい笑顔で彼女を見つめるノア王太子のダンスも止まることなく進む。

 そんな二人のダンスを苦々しく見つめる()つの視線が会場内から注がれていた。

『やってくれましたね! まぁ、今夜から解禁になったのだから仕方ありませんが、先手必勝と言うことですか』

 アイシャ争奪戦の幕が、今、切って落とされた。


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