転生アラサー腐女子はモブですから!?
 あの乙女ゲームの世界には、三人の攻略対象者がいた。

 エイデン王国の王太子、ノア殿下。そして、『白き魔女』の両翼となる知の名門ウェスト侯爵家のリアムと武の名門ナイトレイ侯爵家のキース。

 その三人との出会いイベントでもある王城で開かれるデビュタントの披露目の夜会。

 社交界デビューを果たしたグレイスは、その夜会で、第一攻略対象者であるノア王太子殿下に一目惚れをされ、ファーストダンスに誘われる。

 そして、一回目のダンスが終わり、離れようとしたグレイスを強引に引き留めたノア王太子と二回目のダンスを踊り、グレイスの存在は婚約者のいないノア王太子の想い人として社交界で認知されるようになる。

 しかし、周りの貴族の反応に恐れをなした彼女は、王太子から逃げるようにその場を後にする。

 その場を逃げ出すことに成功したグレイスだったが、王太子との婚約を目論む悪役、アナベル・リンゼン侯爵令嬢とその取り巻き令嬢に、運悪く捕まってしまう。

 夜会の片隅で罵倒されているグレイス。そんな彼女を助けた貴公子がいた。それが、第二の攻略対象者、リアムとの出会いイベントだ。

 第三の攻略対象者キースとの出会いは、夜会から数週間後。息抜きに街に出たグレイスは、悪役令嬢が差し向けた暴漢に襲われそうになっていた所を彼に助けられるのだ。

 そして、三人との仲を深めていく中で、グレイスは『白き魔女』である事を彼らに打ち明け、幼少期から養父に『白き魔女』としての力を酷使されてきた事を話す。そんな彼女に、攻略対象者達が、ナイトレイ侯爵家とウェスト侯爵家は『白き魔女』を護る両翼であり、王家は保護する立場である事を告げる。

 攻略対象者達に背中を押され、養父と戦う決意をするグレイス。そして、最後は養父と手を組んだ悪役令嬢こと、アナベル侯爵令嬢を断罪し、一番好感度が上がった攻略対象者と結婚するハッピーエンドだったはず。

 それなのに、あの女の記憶が一切ない。

――――アイシャ・リンベル伯爵令嬢?

(ヒロインである私の立ち位置にいたあの女はいったい何者なのよ!)

 しかも、一番最後に出会うはずのキース様と二回もダンスを踊り、悪役令嬢のアナベルに罵倒され、それをリアム様に助けられ婚約者宣言。

(なぜ、あの女は攻略対象者三人から求婚されているのよ!? あの場所に居るのはヒロインである私でしょうが!!)

 あの女に対する怒りが、グレイスの中で湧き起こる。

 おさまらない怒りのままに、グレイスは呼び鈴を鳴らし、専属執事のセス・ランバンを呼び出した。
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