転生アラサー腐女子はモブですから!?
「まぁ、社交界の寵児と言われる、あの御三方が相手では、アイシャに上手くあしらえと言ったところで無理でしょう。社交界デビューを機に早速仕掛けて来たと言うわけですか。アイシャは、社交界で未婚の男女がダンスを二曲続けて踊る意味を分かっていますね?」

「はい。お互いが婚約しているか、それに準ずる状態にある事を示しています。男性側から求婚されているとか……」

「そうです。貴方は今、社交界でノア王太子殿下とキース様とリアム様から求婚されているとみなされています。この状態が長く続けば、貴方は三人の殿方を振り回す悪女と、レッテルを貼られてしまいます。早急に婚約者を決めねばなりません」

「――――ですが! 三人ともお断りする事も可能ではありませんか?」

「はぁぁ、アイシャよく考えてみてください。王太子殿下に、伯爵家より位の高い侯爵子息二人ですよ。伯爵令嬢如きが誰も選ばずお断りした日には、それこそ身の程もわきまえない愚かな娘と、レッテルを貼られます。貴方は嫌でもこの三人の中から婚約者を選ばねばなりません」

「そんなぁ……」

「アイシャには話していませんでしたが、キース様とリアム様との婚約話は一年前から出ています。両家から正式に打診もされています。今回の件がなければ、内密にお断りも出来たかもしれませんが、王太子殿下まで参戦なさるとなると、伯爵家如きがどうこう出来る問題ではありません。しかも、社交界に御三方から求婚されている事実が知れ渡った今、お断りは無理です」

(えぇぇぇぇ!! 完全に騙しうちじゃない)
 
 その婚約話を先に教えてくれていたら、今夜の夜会での振る舞いも絶対に変わっていた。ノア王太子はイレギュラーすぎて対処出来なかったかもしれないが、リアムとキースに関しては、回避に全神経を注げば逃げ切れたかもしれないのに。

「アイシャ、覚悟を決めなさい。貴方も社交界デビューを果たした令嬢です。自身で責任を取らねばなりません。今回の件、あの御三方にしてやられましたね」

 神妙な顔をして言葉を紡ぐ母の口元が、かすかに笑みを浮かべている。

(絶対、私が断れない様に婚約話も隠していたのよぉぉ。ひどい、ひどい……)

 アイシャは父の執務室から退出すると、自室へと戻り、ベッドへ倒れこむ。

(あぁぁぁ、ノア王太子にキースにリアム。この中から、婚約者を選ばないといけないなんて……)

 逃げ道を必死に探すが、この三人を相手に逃げ切れる策が思い浮かばない。

 八方塞がりの状況に、アイシャは考えるのを放棄して、妄想の世界へダイブした。(冒頭に戻る)

 そして、数日後。
 婚約話を回避する策を考える事を放棄したアイシャは、激しく後悔していた。

『婚約者候補三人とそれぞれ一週間ずつ過ごしてみなさい。先ずはお互いを知る事から始めてみたら♡ どう過ごすかは、あちら側から指示がありますからねぇ~♪』

 ご機嫌な母から伝えられた言葉に、本気で殺意を覚えたアイシャだった。

 アイシャ包囲網は着実に狭まりつつある。


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