転生アラサー腐女子はモブですから!?

甘い朝食

 前日の衝撃的なキスシーンから一夜明け、アイシャは広々としたダイニングで、キースと二人、朝食を摂っていた。

 ダイニングには、十脚の椅子が左右に並べられた長テーブルが置かれている。給仕のメイドの案内で、綺麗な庭が見渡せる窓際の席に案内され着席したアイシャだったが、なぜか真横には、少し遅れてやって来たキースが座っている。こんなに広いテーブルなのだから、真横に座らなくてもいいのにと思いつつ、アイシャはフォークに刺さったトマトを口に放り込む。

(きっと、給仕し易いように隣に座ったのよね)

 先ほどからアイシャの朝食を取り分けたりと、本来であれば給仕メイドがやるべき仕事を率先して行っているキースに違和感を感じつつ、取り敢えずは気にしないことにする。

(これが、ナイトレイ侯爵家の朝食スタイルなのね、きっと)

 そんなことを上の空で考えながら、目の前に鎮座するベーコンエッグにアイシャの目はくぎ付けだった。半熟に仕上げられた目玉焼きと、こんがりと焼けたベーコンの組み合わせは、目にも美味しそうに映る。

(これをパンに乗っけて食べたら、絶対に美味しいんだろうな。食べた瞬間、黄身があふれて……)

 口の中に広がるベーコンの香ばしい香り。そして、トロッと溶け出した黄身のコクとベーコンの甘みが合わさり、格別なマリアージュを生む。それを優しく包むパン。想像するだけで、よだれが出てくる。

 しかし、貴族令嬢たるもの、そんな食べ方をしたら、行儀が悪いと後ろ指を刺されてしまう。

(家だったら、お小言を言われようと、やるんだけどなぁ。ここじゃ、無理よね)

 アイシャはコソッとため息をこぼし、もったいないと思いながらも、手に持ったナイフで目玉焼きを切り分けようとして、キースに声をかけられた。
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