転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アイシャ、目玉焼きの美味しい食べ方を知っているかい?」

「美味しい食べ方?」

「あぁ。まずは、片手にパン、そして、目玉焼きの下に敷かれているベーコンをフォークで刺して――――」

「えっ! うそ……」

 横に座ったキースが、フォークに刺さったベーコンをパンの上に置き、さらにその上に目玉焼きを乗せて、パンを半分に折り、食べたのだ。

「ちょっと、行儀が悪かったかな。でも、これが格別に美味いんだ。騎士団にいると遠征が多いからな。簡易的に食べられる方法が身につくというか……」

 そう言って、少し恥ずかしそうに笑うキースから目が離せなくなる。彼は知っていたのかもしれない。

 昨晩、ここに到着した時から不思議に思っていたのだ。通された客間の内装から、メイドが入れてくれるお茶やお菓子、ディナーで提供された食事に至るまで、驚くほどにアイシャの好み、ど真ん中だったのだ。

 キースは、アイシャがナイトレイ公爵領へ来るまでの間に、どれほどの時間を費やし、情報を集め、アイシャのために準備をしてくれたのだろうか。きっと、想像以上に多くの時間を、自分のために割いてくれたのだろう。

 だからこそ、アイシャの好きな目玉焼きの食べ方まで知っていた。そして、客人として招待されている立場では、パンに(はさ)んで目玉焼きを食べるなど出来ないこともわかった上で、自らやって見せてくれた。

 ここでは、自由に、好きに、振舞ってもいいのだと、言われているようで、胸が熱くなる。

「キース様。わたくしも、やってみていいかしら?」

 パンを手に持つと、その上に目玉焼きとベーコンを乗っけて、一口食べる。

「――――美味しい。とっても、美味しいです」

「それは、よかった。アイシャ、ここでは気を使わなくていいから。普段通りのアイシャと、俺は過ごしたい」

「えっ!?」

「いや、その……、なんだ。ここにいる使用人は皆、気心の知れた者たちばかりなんだ。だから、気を使わなくて大丈夫というか、なんというか……」

 急に歯切れが悪くなり、口ごもるキースを見て、アイシャの心が温かくなる。

(耳まで赤くなっちゃって、キース様って、可愛いところもあるのね)

「ありがとうございます、キース様。では、普段通り、過ごさせてもらいますわ」

 アイシャの言葉に、嬉しそうに笑うキースを見て、鼓動が、ひとつ『トクンっ』と高鳴った。
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