満月の夜に〜妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった〜

リディアの置き手紙

 私の返事を聞いた殿下は「そういえば……」と言いながら、自身の懐から何かを取り出した。
 カサリと紙の乾いた音を立てながら、手紙を広げていく。

「手紙……?」

 私が首をかしげると、文字が読めるように私の目の前に持ってきてくれた。

「リディアからの置き手紙だそうだよ。これに家出するに至った理由が、書かれてある。リディアの部屋の机の上に置かれていたとか」

(え、リディアからの置き手紙?リディアから……私からの?はて??)

 手紙には、日々のお妃教育に疲れた事。シオン殿下との婚約を破棄したい。これからは今までの生活を捨てて、ひっそりと暮らしたいとの内容が綴られていた。

 書かれている文字は、確かに私の字に似ているような気がするけれど……。

「違います!私、こんな手紙を書いたりなどしていません!」

 これは全力で否定しておかないと。自分の意思で逃げ出したという誤解の芽が僅かでもある限り、摘み取っておきたい。

「分かってるよ。この手紙に書かれてある文字には、流れるような部分や、はらいの部分でさえも慎重に書かれているふしがあって、文字に流れが感じられない。
 明らかにリディアの書いた物を横に置きながら、見て書かれている。
 これはリディアの書いた文字が簡単に手に入り、リディアの私室に置いておける近しい誰かの犯行だと思っていた」

(え、細かっ!?)

 もう既に誰が犯人なのか、元々分かっていたかのような口振りは置いておいて。僅かな隠し事や嘘も、見透かされてしまいそうな気がしてくる。
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