1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

 病気と言っても幼少期の頃だけで、13歳になった頃にはすっかり健康そのものだった。
 しかし、主治医までもがミラベルを甘やかしていた。
 ミラベルの我儘に付き合いきれなくなったアリアが一度彼女に注意をしたことがある。
 すると、主治医は言った。

『あなたは可哀想な妹に冷酷すぎる。あなたのような意地悪な姉はこの世界のどこを探しても存在しないだろう』


 何が可哀想な妹だ。
 何が冷酷だ。
 何が意地悪な姉だ。

 アリアは当時のミラベルの主治医を憎んだ。
 だが、主治医はその後医療ミスを起こして首になり、伯爵家に来ることはなくなった。


 アリアは悶々とする気持ちを抑え、自分を落ち着かせるように深呼吸をする。
 ミラベルがフィリクスに好意を持とうが、関係ない。

 そう、関係ないのだ。
 どうせ、離縁するのだから。


「わあっ! 侯爵さまとあたしって趣味が合いますね! 今度一緒にお出かけしませんかあ?」

 ミラベルの提案にフィリクスは笑顔で「いいよ」と了承した。
 なぜ了承するのかしら、とアリアは睨むようにフィリクスを見つめた。

 
 ミラベルが滞在するこの3日間、アリアはよく眠れなかった。
 ベッドに入っても、もやもやした気持ちが晴れず、なかなか寝つけないのである。


「ミラベルはどうして私の大切なものばかり持って行くのかしらね」

 そんなふうに呟いたのは、寝入る寸前のことで、朝起きたときにはもう忘れていた。


 私の、大切なもの……。



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