「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 勇者ご一行の魔法使いルーンさんの家は、高級住宅街に位置しているとは言えど、こじんまりとした可愛らしい二階建てだ。

 シリルと同じように彼だって爵位を王から叙爵されているらしいんだけど、貴族院に所属して貴族として生きる気はさらさらないらしい。自由な性格のルーンさんらしい選択だと思う。

 窓からのぞきこんでも、暗い室内は見えない。

 他の人から見たら留守の家の様子をうかがっている不審者でしかないんだけど、ことは時間を争うしそんなことを気にしている場合でもない。

「……そこに居るのは、ロッソ公爵夫人ではないか?」

 暗い室内を何か手がかりがないかと目をこらして見ようとしていた私は、いきなり背後から話しかけられて驚いた。

 こんなところで彼に会うなんて、まったく思っていない人がそこに居たからだ。

「え……お久しぶりです。エミリオ……ヴェルデ様……」

 にこにこと感じの良い笑顔を浮かべるエミリオ様は、力を持つヴェルデ家の嫡男。背が高くて見栄えも良く、結婚前の若い令嬢がこぞって彼の婚約者の座を狙うような、社交界の人気者。そんな人だ。

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