「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

18 別れたくない

「……エミリオ・ヴェルデ。どんなに脅されても、私はこれから先、貴方を愛することはないわ」

 社交界デビュー当時、目の前でおかしなくらい明るい笑顔をしているこの男に声を掛けられて浮かれていた何も知らない自分に言ってあげたい。

 「それは救いがたいほどのクズだから、気に入られないうちに今すぐに走って逃げなさい」って。

「何を」

 彼の希望を聞くしか出来ない状況に追い詰め、完全に下に見ていた私がそんなことを言い出すなんて思ってもいなかったのか。

 今まで不気味な笑顔をしていたエミリオ・ヴェルデは、ぽかんとした間抜けな顔になっていた。

 あの夜。もし、シリルに会うまでの私がここに居たなら、きっとここで彼の言うことを聞くだけしか能のない操り人形のようになってしまっていたはずだ。

 けど、私は本当に伴侶として大事にされるということはどう言うことなのかを知り、真正面から愛してくれる彼をおそるおそるだとしても愛することを知っていた。

「貴方の要求どおりに、シリルと離婚して結婚はするわ。けれど、だからと言って貴方を決して愛することは絶対にないから。それを、事前に言っておきたいの。後から話が違うと言われても困るし、どんなにおどされて体をいいようにされても、私は絶対に思い通りにはならないわ」

 控えめな性格で大人しい私は一人では何も出来ないだろうと思っていたのか、聖女ベアトリス様もエミリオ・ヴェルデと同じような変な顔をしていた。

 あら……自分と同じように私が考えることの出来る人間であると言うことが、そんなに意外なことなのかしら。

 もしかして、強い人間に従うしか出来ない、自分とは違う種類の人間だとでも思われていたの?

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