【書籍化】「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。【コミカライズ】
 夜会用の重たいドレスが水に濡れるのもお構いなしに、私は手持ち看板を持っていた背の高い男性を見た。

 目を凝らせば彼は『急募:俺と結婚してください』と、大きく書かれている手持ち看板を持っていた。少し距離のあるここから見れば何を言っているかわからないけど、雨の中まばらに通りを歩く人たちに呼びかけてもいるようだ。

 どう考えてもそんな変人と結婚したい女性なんて居る訳がないから、素通りされていた。

 雨も降っているし、いくつもの傘が彼の前を通り過ぎた。

 誰かに言えばどうかしていると思われそうだけど、私は懸命に呼び掛けている彼に興味が湧いてしまった。

 どうか結婚してくださいと街頭で呼び掛けるくらいなら、こんな良いところも何もない私だって良いはずだ。相手に困っている彼なら、私と結婚してくれるかもしれない。

 私は傘も差さずに彼へと駆け寄って、その顔を見て驚いた。驚くほどに造作の整った、美しい男性だったから。

 きっと、今夜が傘を差さねば歩けないくらいの雨ではなくて、彼の顔を簡単に確認出来る日ならば、私のような物好きな女性だって何人かは居たかもしれない。

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